エムエスツデー 2022年4月号

計装豆知識

BA(ビルディングオートメーション)の空調自動制御
空気線図 その3印刷用PDFはこちら

はじめに

前回は、暖房時に空気の状態が空気線図上をどのように変化するかを考えてみました。今回は、冷房時に空気の状態が空気線図上をどのように変化するかを考えてみましょう。
その前に、空気線図のおさらいをしておきます。図1が人を対象とする空気調和で一般的に使われている、温度範囲が−10~50[℃]の空気線図です(NC線図(*1))。横軸が乾球温度、縦軸が絶対湿度を表しています。左下から右上に伸びるカーブは相対湿度です。また、左下から右上に伸びる直線は、空気1[kg]あたりの熱量を表す比エンタルピーの目盛です。

(*1)空気線図はインターネットで検索すれば入手できます。

図1 空気線図(NC線図)

図1 空気線図(NC線図)

空調システム

今回も、前回と同じ図2の空調システムで、冷房時のそれぞれの場所での空気の状態を空気線図上で追ってみましょう。なお、この空調機の換気のための外気取り入れ量は、前回と同じく送風量全体の30%とします。
また、夏期冷房時には、冬期暖房時とは異なり、一般に蒸気噴霧による加湿は必要ありません。

図2 空調システム

図2 空調システム

冷房時の空気の状態変化

まず冷房時のシミュレーションとして、外気と室内および空調機の出口温度の条件を設定します。
今回は真夏の日中を想定して、次のように設定しました。

・外気 33[℃] 70[%RH]
・室内 26[℃] 60[%RH]
・空調機出口 15[℃]

図3が冷房時の空気の変化を空気線図上に表したものです。表1は各点の空気の状態を表しています。
図3のA点は還気(室内空気)の26[℃]、60[%RH]の点です。B点は外気の33[℃]、70[%RH]の点です。A点とB点を結ぶ直線を還気風量と外気風量の比率(7:3)で分割したC点が、還気と外気の混合空気になります。空気線図からC点は、温度が28.1[℃]、湿度が64[%RH]であることが読み取れます。ここから混合空気を冷水コイルで冷却すると、冷水コイル出口の空気は15[℃]、95[%RH]のD点(*2)に移動します。空調機のファンによる空気の熱損失がないと仮定すると、ダクトを通して室内に送風された15[℃]、95[%RH]の空気が、室内の冷房負荷と熱平衡状態になった時に、室内が希望する26[℃]60[%RH]になります。
冷房時には室内を循環する空気と取り入れた外気は、空気線図上をこのようなサイクルで移動し室内を快適空間に保ちます。


図3 冷房時の空気の変化を表した空気線図

図3 冷房時の空気の変化を表した空気線図

表1 各点の空気の状態

表1 各点の空気の状態

(*2)室内からの還気と外気の混合空気を冷却コイルで冷却すると、その空気はC点からD点に移動しますが、
    実際には図4の点線のように直線的に移動するのではなく、実線のように変化してC点からD点に到達します。
    このように、C点の空気は冷却されて左に移動しますが、湿度100[%RH]の露点温度に達する前
    (湿度95[%RH]前後)にD点へ下降して行きます。これは図5に示すように、冷却コイルを通過する
    空気がすべて冷却コイルに接して冷却されるのではなく、一部の空気は冷却されずにそのまま通過するため、
    冷却コイル出口の空気は露点温度に達せず、湿度100[%RH]にならないからです。この冷却されない空気の
    量の割合をコイルのバイパスファクターと言い、通常5%程度の値になります。

図4 冷却された空気の状態変化

図4 冷却された空気の状態変化

図5 バイパスファクター

図5 バイパスファクター

熱量計算

冷温水コイルが冷房時に空気から取り去る熱量は次式で求めることができます。
冷水コイルの熱容量 = 0.278·G·ρ·(h3ーh1) [W](*3)
ただし
G:送風量[m3/h]
ρ:空気密度(通常は、1気圧、20[℃]、65[%RH]での空気密度である
  1.205[kg/m3]の値を使用します)
h1:冷水コイル出口空気(D点)の比エンタルピー(図3の例では40.7[kJ/kg]になります)
h2:冷水コイル出口空気の顕熱と潜熱の分岐点の比エンタルピー
h3:冷水コイル入口空気(C点)の比エンタルピー(図3の例では67.4[kJ/kg]になります)
冷房時の冷温水コイルは、通過する空気から顕熱量を取り去る仕事と、潜熱量を凝縮水として取り去る仕事を行います。したがって、冷房時に冷温水コイルが通過する空気から取り去る熱量は、次式で表される顕熱量と潜熱量の和になります。
 顕熱量 = 0.278·G·ρ·(h2ーh1) [W]
 潜熱量 = 0.278·G·ρ·(h3ーh2) [W]
温度や絶対湿度、比エンタルピーなど空気の諸要素は計算で導き出すこともできますが、計算式が複雑であるため空気線図から求めるほうが効率的です。最近では自動計算してくれるソフトも販売されているようです。しかし空調エンジニアとしては、空気の諸要素の値を求めるだけでなく、それらが空気線図上をどのように変化して行くかを理解することも必要です。

(*3)係数0.278:空気の熱量は、送風量[m3/h]と空気密度[kg/m3]とエンタルピー[kJ/kg]の積で求められます。
    また、熱量の単位の[W]は[W]=[J/s]ですから、空気の熱量単位を[W]に変換するため、
    1000[g]/3600[s]=0.278を乗算しています。

【(株)エム・システム技研 BA事業部】


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