設計者からのコメント


(株)エム・システム技研 開発部 副主任技師

 ■開発のいきさつ

 セルシン変換器の開発完了は1988年末ですが、着手したのは1983年でした。当時、セルシン用ICとして、アメリカのアナログデバイス社製ハイブリッドICがありました。これは価格が20万円と高価なため、また大きくてプラグイン形ケースに入らないため採用をあきらめました。
そこで、ディスクリート回路で実現すべく、回路検討を始めました。問題は、角度を演算する部分で、tan-1の演算では90゜ごとに無限大になるので入力信号の分子と分母の入れ替えを行わなくてはならず、生産ラインに乗せたとき調整が非常に困難になることが予想されました。
 この演算を簡単に実現する手段はマイコンの利用です。ところが、当時のマイコンはN-MOSプロセス製のため、発熱が多すぎてプラグイン形ケースに収納するのが困難でした。
 この状態で、開発が中断されていたところ、1988年夏に社長から開発部員全員を対象にして、セルシン変換器を完成させた者に特別報酬金がでることになりました。
 このテーマに興味のある部員は開発中のテーマを中断して数グループに分かれて検討を開始しました。これらの中で、私と家村主管技師とで協力して検討した方式が採用され、今度はわずか3カ月間で完成させることができました。

 ■設計のポイント

 セルシンモータの信号は、位相が同一で振幅が変化します。これを同期整流し、マイコンでx軸成分とy軸成分に整理したうえで回転角度を求めました。
 この方式は、調査の結果、他に類似方式が見あたらなかったので実用新案を出願しました。

 ■ゼロ調整範囲360゜

 セルシン変換器の機能を100%利用するには、プログラミングユニット(形式:PU-2)が必要です。一方、セルシン変換器の用途は、ほとんどが既設システムの改良用であるため、プログラミングユニットなしで使える方法がないかも考えました。
 既設のシステムであっても、セルシン指示計の回転角度範囲は現物を調べれば容易に分かります。この角度を注文時に指定していただければ、あとは現場でセルシン変換器のゼロ点を動かして、既設の指示計の目盛りに合わせることで据え付け調整が完了します。そのために、セルシン変換器のゼロ調整範囲は360°にし、ドライバで設定できるように考えました。

 ■折れ線リニアライザ内蔵

 セルシン発信器の回転角度と出力の間には、モータの巻線との関係で微少なノンリニアがあります。リニアライザを内蔵すれば、キャリブレーションを行うことによって高精度が要求される用途にも使えます。
 マイコン方式を採用したセルシン変換器では、ROMにプログラムをセットしておくだけで、部品原価ゼロでリニアライザ付が実現できました。また、セルシン発信器をアームの回転角度センサとして使用し、これを直線変位に変換するときにも、リニアライザは有用です。

 ■感想

 セルシンモータはブラシとスリップリングを使っていますが、使用電圧が高いため、また接触圧が大きいために、接触不良に起因する不良はほとんど起きません。また、実用化された歴史も古く、第二次世界大戦前から、商船や軍艦で、マスターとなるジャイロコンパスの信号を伝送して、船内や艦内各所に置いたリピータに遠隔表示するために使用されていたそうです。
 この優れたセルシンモータも直流信号が出力できなかったため、コンピュータ時代に入ると、ポテンショメータに置き替わっています。「もう10年早く、セルシン変換器ができていれば、故障が少なく耐久性に優れたセルシンモータが、もっとたくさん使われ続けていた」と思うと、いささか残念です。





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