メーカーが、MAPの轍を踏まないように、規格作成委員会活動と並行に、規格案を試作品にして現場テストをすることにしました。テスト結果は委員会にフィードバックします。この目的で4年ほど前に50社以上でIFCグループができました。これが会員会社の利害対立からISPとWORLD FIPの2グループに分裂しました。1994年に、両者が解消して主に日米の会社でFIELDBUS FOUNDATION(フィールドバス基金と訳しましょうか)が設立されました。これは、規格作成活動は年月がかかり、負担が多く、しかも不安定なことの現実例です。

工業規格の功罪

 規格は、関連技術の普及と均一化を図ります。規格が多いとマーケットは完全競争市場へと動き、自由マーケット経済の促進になります。ユーザーにとって、外筐、設置に関する規格は違ったメーカー製品の組合せ設置を容易にし、設置の標準化ができます。安全規格は仕事場を安全にします。EMC規格は電波公害を少なくします。メーカーでは、規格になっている部分は製品の標準化ができます。専門メーカーは標準信号を使うことにより、図1のように接続される他社製品に左右されることなく特異製品(注1)を作れます。これらは有用さの一部の例に過ぎません。
 国際規格は自由貿易を促進します。最近発展が顕著なブラジルのSMAR社は、国際規格の作成活動に活発で、その製品化に努力しています。同時に対輸出国の規格実施も積極的にして、先進国メーカーが占める国際マーケットへの割込みに成功しています。
 工業規格も実施面で害が出ます。まず、関連技術を固定化して自由な技術発想の芽を止める可能性が強いことです。たとえば、4~20mA信号の代わりに16~20mAにして受信側のオペアンプ式端子でDC1~5Vにするとします。現存の計器を変えることなく、また安全規格にも違反することもなく、0%出力のときに16倍の電力を2線式変換器に送れます。これで製品の種類と機能の増加ができますが、信号規格があるがために採用に抵抗があります。
 つぎに、他国と違う自国規格を輸入障壁にして、保護貿易をする場合です。計装業界ではDIN規格の外筐、電気端子盤、取付け法を使うようになってきました。これはドイツがDINに固執するので、国際的メーカーが母国ユーザーの寛容さに甘えてDINの方を採用してドイツの輸入障壁を迂回した結果です(図2参照)。
 ヨーロッパ圏はEMCに関するCEマークの強制を発表しています。このCEマーク実施で安全促進と電波公害の防止ができるので、日本でもアメリカでも同様に実施すべきです。しかし、その実施の仕方から見ると、ヨーロッパからの外国電子製品締出しが本音ではないかとも思えます。
 規格作成機関が、それ自身の利益目的から、新しい技術動向を先取りして規格作成を始める傾向にあります。これではメーカーが新製品を育てて、利益をあげる機会を殺してしまいます。私はフィールドバスも規格委員会が早く取りあげる必要はなかったかと反省しています。
 工業規格は作成方法に改善の余地があり、実施面で害も出ますが、自由マーケットを促進する経済効果は計り知れません。ユーザーもメーカーも規格作成・実施に関連していっそうの努力をすべきです。

<注1>DIFFERENTIATED PRODUCTSのこと。詳しくは前回(『MS TODAY』5月号4~5ページ)をご参照ください。

     

風早 正宏
MKKインターナショナル
社長
学術博士(Ph.D)





<前ページへ次ページへ>

*. 本ウェブサイト上に掲載されている情報は、掲載した時点での情報です。記載内容はお断りなしに変更することがありますのでご了承ください。

*. 本ウェブサイト上の表示価格には消費税は含まれておりません。ご注文の際には消費税を別途頂戴いたします。

MG 株式会社エムジー

Copyright © 1992 MG Co., Ltd. All rights reserved.