本安構造では、作動電力も故障時電力も爆発を誘発しないように少なくしてあります。したがって、筐体も配線も安価になります。
 これを技術習慣から見ると、ドイツを筆頭に、ヨーロッパ諸国では本安が主体で、電磁流量計などのように電力を使う製品を例外的に耐圧防爆構造 <注1>にしています。アメリカでは、混用でユーザーによって異なります。一口に「ユーザーによって」といってもEXXON社、DUPONT社などの売上高は中小国のGNPより多いので、「国によって」というのと同じです。あるユーザーは少しでも計装費を安くするために本安を使おうとし、ほかは計器だけを本安にしても、ポンプモータ、スイッチ類などは耐圧防爆構造にせざるを得ないから、耐圧防爆に統一した方が間違いが少ないと考えています。日本では、どちらかというと耐圧防爆がより多く使われているように見えます。
 現場設置の2線式圧力変換器、差圧変換器、温度変換器の場合、耐圧型と本安型を区別するのを嫌って、本安構造の電気回路を耐圧防爆筐体に入れるようになっています(図2)。私の失敗の1つとして、差圧変換器を安価にするため、一般用と本安用をプラスチック製カバーの外筐に入れて発売したことがありましたが、注文がなくて製造を中止してしまいました。これは防爆・本安一体化の技術習慣に逆らって失敗した例で、少し価額を安くするだけでは技術習慣は破れないことを習いました。
 これまでに、技術習慣という考えを3例をあげて説明しましたが、このほかにも数多くあります。

技術習慣と正帰還経済論

 近年出た正帰還経済論 <注2>は、経済学の中で技術習慣を初めて捕らえ、製品成功の要素としてその重要さを唱えています。
 正帰還経済論は多岐にわたって論じていますが、その中でいくら高度技術、高質品でもユーザーニーズ以上に良い部分(よくあるように、製品開発者が独りよがりに高級化した部分)は製品の成功に貢献しないが、技術習慣を取り入れることは、国別あるいは地域ごとのマーケットで成功するために重要なことも論じています。これは前節までの説明のとおりです。
 そこでメーカーが製品で成功するためには、国ごとの工業規格と技術習慣を研究して、製品設計に盛り込むことが必要です。
 日本のユーザーが海外に生産拠点を移して日本の空洞化が起きているときに、とくに考えねばなりません。差圧変換器で耐圧防爆も本安も満たし、しかも低コストにする工夫がされたように、異なった技術習慣を共通に満たすような設計をする独創性を追求する必要があります。

<注1>山武ハネウェル社の2線式電磁流量計はこの技術習慣を変えるものです。
<注2>W. BRIAN ARTHUR、“POSITIVE FEEDBACKS IN THE ECONOMY” pp92-99、SCIENTIFIC AMERICANS FEB. 1990.

     

風早 正宏
MKKインターナショナル
社長
学術博士(Ph.D)

《著者略歴》岡山大学理学部卒。同大学より学位取得。米国ワートン・スクール大学院より経営学修士(MBA)を取得。1954年より1967年まで、旧北辰電機製作所勤務。退職時は技術総括担当(部長)。1967年より1994年まで、同社元技術提携先米国フィッシャ・アンド・ポータ社に勤務。退職時は技術・営業・経営計画担当副社長。この間に、12年間、母校ワートン・スクール大学院で学外講師を勤める。授業活動としてフォード・モータ社などの経営分析をする。最近は、年1回特別講義を担当。1994年、米国内でMKKインターナショナルを設立、経営・技術コンサルタントと執筆業を開始。

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