世界の計装事情  第8回(最終回)
 計装技術の道標


米国・MKKインターナショナル
風早 正宏


 この連載の書き出しに、計装機器の機能は40年来、本質的変化はないと言いました。しかし、その機能を具現している製品は次々に開発され、変化していて、その観察もしてきました。その中核である計測技術開発の道標は、測定値の精密さ、正確さ、安定性の改良と、使う理論の革新でした。そのうえ、伝送距離の延長がありました。今も、それらに変わりはありません。

 精密さの向上

 ANALOG DEVICES社製形式AD7714 アナログ デジタル変換器(ADC)は、電圧測定に24ビットの精密さを標榜しています。これは測定用フィードバック信号の発生に1ビット デジタル アナログ変換回路を使っているので、何回もサンプルした測定値を平均して使えば精密さは良くなるという理論に基づいています。実際には22ビットがAD7714の上限のようです。これはほぼ4百万分の1(0.000024%)の精密さですから、画期的技術進歩です。
 私は半年前までは、0.01%前後の技術開発を管理していました。AD7714はその500倍の精密さです。電圧測定入力部は、銅導線、入力端子板金属、プリント基板銅箔、ICピン、ハンダなどと、異種金属が熱電対を直列接続したような回路になっています。0.01%でも、測定回路の温度分布を均一にして検定しなければなりません(たとえば、ハンダ付けをした直後には、検定できません)。検定用電圧をこの精密さで発生すること自体が1つの研究対象です。機会を得て4百万分の1の精密さをどのように開発されたか、開発エンジニアに教えて戴きたいと願っています。
 このように高精密さが得られると、測定誤差の解析方法をはじめ測定技術を本質的に変えて行かねばなりません。

 正確さと安定度

 AD7714は外部から供給する正確な電圧を基準にして測定します。ANALOG DEVICES社の回路例では基準電圧用IC AD780を使っていますが、その正確さは他の市販品と同等の0.2%です。したがって、AD7714は非常に精密に測定はしますが、その測定値の正確さ(本当さ)は外部回路に依存しています。AD7714 ICの使用者が正確な基準電圧電源を使えば、それに伴ってAD7714の精密さ相当まで、測定の正確さを上げることができるはずです。

 安定度はゼロとスパン< 注1>の安定さで表示します。安定度の向上にはいろいろな考案がなされています。電磁流量計にAC型とDC型を作ったのもゼロ安定のための工夫でした。
 計測器の中でとくに難しいのは、差圧変換器(DPT)のゼロ安定です。最近、横河電機製DPTは、片側過大圧力によるゼロ変化が0.01%ないし0.02%FSだと書かれているのに刮目しました。どのメーカーも到達していない技術レベルだと思います。DPTがこのように安定になると、入力圧力導管に三岐弁が不要になります。これで設備費が下がるだけでなく、漏れの危険が少なくなり、計装の安全度も上がります。また、保守コストも下がります。このように、精密さ、正確さ、安定度の向上は大きな経済効果をもたらします。単なるアカデミックな興味追求だけではありません。
 マイクロプロッサ(μP)採用以来、ゼロ、スパンの自己補正技術が進みました。入力回路を短絡してゼロ点値を測り、既知電圧を測定してスパン値を得て、計算でゼロとスパンの補正をする方法です。出力も似たように補正できます。このようにして、計器の性能は内蔵しているADCの性能レベルまで上げることが可能になってきています。

 伝送距離

 空気圧式計器信号の伝送距離は

     







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