たかだか100mでした。DC4~20mAの電気信号になって約1.5kmに飛躍しました。デジタルテレメータリングになって、通信サテライトを使うと大陸間のような長距離にわたって正確に信号を送れます。しかも、デジタルテレメータリングにはすでに使用可能な技術も施設も手の届くところにあります。
 最近、ある石油会社がアフリカ内部の開発途上国に天然ガスプラントの建設を検討していました。現地で熟練プラント運転員を見つけることができないので、フランスのパリ郊外に中央計器室を作って、プラントとはサテライト通信で結ぼうとしていました(政情不安からプラントの建設が実現していません)。このように、中央制御室がすでにプロセスから分離しているような工場設計では、通信手段さえあればどこから制御しても変わりないと考えられます。
 このような思想が広まると、計測・計装の中で通信技術の重要性が今日以上に高まり、計装実施形態が大きく変わって行くでしょう。

 WAVELET

 フィードバック理論もADCも計装の世界以外から導入したものです。計装は応用工学ですから、メーカーは有用な科学・工学理論を早く見出そうと努力します。約30年前、旧北辰電機製作所の図書室では、PHYSICAL REVIEW、 APPLIED PHYSICS、IEEE(の前身)、CHEMISTRYなど基礎科学誌や工学誌をたくさん購読していました。「これから7年ないし10年したら、その内容を製品化しているか、少なくとも特許反証には使える」と言って読んでいました。
 最近製品になっているファジー理論も1970年ころまでに出ていました。10年弱前に出たWAVELET理論は、これから重要度を増すと思いますので、人に薦めています <注2>。
 WAVELETはフーリェ関数変換(FFT)のように、信号の表現と解析に使います。サンプル数がFFTの10分の1から50分の1で同等の結果が得られ、収斂も早いのです。サンプル数を上げると精度が上がります(FFTは必ずしもそうではありません)。WAVELETを実行するソフトウェアも、ハードウェアで高速に実行するためのICも作られています。
 測定に使う場合、S/N比の悪い信号の中から信号成分を早く取り出せます。たとえば、電磁流量計を伝導度がほとんどない流体に使ったときの信号処理に使えるのではないかと思います。プラントで周波数応答を測定して、プラント特性を測るのも興味ある応用でしょう。構造物の非破壊試験にも応用できます。医療機器のCATではFFTを使っていますが、WAVELETで置き換えると画像が向上し、しかも測定時間が数分の1になって、現在非常に高い運転コストも下がると思っています。
 WAVELETは、理工科系講座ではFFTの授業時間の一部を割いてでも、教えるべきだと考えます。

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 今回で「世界の計装事情」を終了します。お読み戴いてありがとうございました。
 本稿は、計装史でも計装技術報告でもなく、技術コラムとして書きました。コラムは「発見と驚きと個性があるべきだ」と言われます。これに沿うように努力しましたが、至らないところや、個性発揮が行き過ぎて独断になったところもあったかと懸念します。ご指摘、ご指導をお願いします。
 本稿はエム・システム技研の広報誌に書きましたが、筆者の主体性を保ちました。このためにエム・システム技研自身にも聞き難い内容があったことと思います。これに対して「依頼した以上、原稿はそのまま載せるように」と編集指示を出した旧友宮道社長に感謝するとともに敬意を表します。私の固い文章を読み易くするよう努力して下さった編集者にもあらためて感謝します。皆様、ありがとうございました(文責は筆者)。

<注1>中間目盛の計器もあるので、下限レンジ値、上限レンジ値と言った方が広義ですが、ここでは日常使われているゼロとスパンにしました。
<注2>本誌では参考文献の列挙は省きました。

     

風早 正宏
MKKインターナショナル
社長
学術博士(Ph.D)

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