自動制御入門  第4回

PID定数の調整(その1)


松山 裕
まつやま ゆたか
松山技術コンサルタント事務所 所長


      4.PID定数の調整

 これまでPID制御のもつ意味を説明してきました。しかし、これだけではPID調節計を調整することはできません。対象プロセスの特性を調べ、制御の目的に合うように比例帯・積分時間・微分時間(これらをPID定数といいます)を調整しなければなりません。そこで、制御の目的とは何か、対象プロセスの特性を調べるにはどうするのかを考え、次にPID定数の調整法について検討することとします。
 4.1 制御の目的と制御の経過
 調節計により対象プロセスを制御する目的には、次の2つがあります。
 (1)目標値を変更したとき、できるだけ速く測定値が目標値に一致するようにすること。
 (2)外乱によって測定値が目標値からずれたとき、できるだけ速く元に戻すこと。
 前者を目標値変更への対応、後者を外乱への対応といいます。まず前者について考えてみます。階段状に目標値を変更したときのPID制御における測定値は、たとえば図4.1のような経過をたどって変化します。この図では、測定値は最初目標値をオーバーしたあと、若干振動しながら目標値に落ち着きます。このように、一時的に目標値をオーバーすることをオーバーシュートといい、そのオーバーした量を行きすぎ量といいます(定義は図4.1参照)。また目標値を変化させてから、測定値が目標値に一致するまでの時間を整定時間といいます。
 多くの場合、オーバーシュートしないように調整すると、測定値はゆっくりと上昇して行くので、整定時間は長くなります。したがって若干はオーバーシュートさせる方が整定時間は短くてすみます。とはいっても、行きすぎ量が大きすぎると制御プロセスに支障がでたり、プロセス内部の物質が変質したりすることがあります。金属の熱処理とか、食品の加熱殺菌における温度制御はその例です。したがって、オーバーシュートしないように調整するか、オーバーシュートを許すとしてもどの程度まではよいかは、制御の目的によって異なります。結論として、許される行きすぎ量をガイドラインとして、その条件の下で整定時間が最小になるようにPID定数を調整することが好ましいといえます。これをPID定数の最適調整といいます。
 このガイドラインとしては、図4.1に示した減衰比も使用されます。ただしこれはオーバーシュートすることを前提としています。ほかにもいくつかのガイドラインがありますが、説明は省略します。
 以上目標値変更への対応について説明しましたが、外乱への対応についても同じようなことがいえます。外乱が入ってきたとき、当然測定値は変化しますが、そのあと目標値を通過して逆の方向へ振れることもあるし、振れないで目標値に一致するようになることもあります。これはPID定数の調整により変わります。ただし、目標値変更への対応と、外乱への対応とでは、最適調整のPID定数値は異なります。
 4.2 制御プロセスの特性のはかり方
 制御の対象となるプロセスの特性を調べる方法には2種類ありますが、ステップ応答法が一般的です。これは、制御動作を行っていない状態で、調節弁を階段状に一定開度変化させ、そのときの測定値の変化を見る方法です。通常調節弁開度を変化させると、測定値は最初ゆっくりと変化します。しばらくすると変化速度が速くなり、そのあとまたゆっくりと変化し最後には一定値に落ち着きます。この様子を図4.2の太線に示します。
 
     



































次ページへ>

*. 本ウェブサイト上に掲載されている情報は、掲載した時点での情報です。記載内容はお断りなしに変更することがありますのでご了承ください。

*. 本ウェブサイト上の表示価格には消費税は含まれておりません。ご注文の際には消費税を別途頂戴いたします。

MG 株式会社エムジー

Copyright © 1992 MG Co., Ltd. All rights reserved.