1998年5月号 | |||||||||
自動制御入門 第14回各種の制御手法(その2) | |||||||||
松山技術コンサルタント事務所 松山 裕 | |||||||||
11.1 フィードバック制御の限界と対策(前回に続く) (3)むだ時間によるハンチングをなくす制御手法(その2) 前回説明したスミスのむだ時間補償制御は、プロセスのむだ時間を打消す機能を調節計に付加する方法です。したがって、これは積極法といえます。これに対して消極法といえる方法があります。これはいわばむだ時間による影響をさらりと受け流す方法です。 もともとフィードバック制御は、調節計が偏差を検出し、これをなくす方向に出力を出し、さらにその結果としての測定値の変化を見て、出力を修正するという形で機能します。しかし、むだ時間が長いプロセスでは、測定値の変化の情報がなかなか入ってこないため出力の修正がうまく行かず、事実上フィードバック制御にならないのです。そこで、むだ時間の間は調節計の動作を停止させ、むだ時間経過後測定値を調べて偏差を知り、これに対して制御動作を行えば、フィードバック制御と同じことになります。これがサンプルPI動作であり、原理図を図11.5に示します。 図に見るように、ある時間(制御時間)だけPI動作調節計を動作させ、あとは調節計出力をホールドします。その後一定時間たったら同じ動作を繰返します。この繰返しの周期をサンプリング周期といい、通常むだ時間Lに時定数Tの2~3倍を加えた値とします。また制御時間はサンプリング周期の1/10程度とします。 この方法は、調節弁をちょっと動かしてそのまま止め、しばらくたってから様子を見てまた調節弁を動かすので、“wait and see”法ともいわれます。この方法は、外乱の影響がなくなるまでにやや時間はかかりますが、失敗する可能性は少ないので、いわば素人向けといえます。 なお、むだ時間Lが長いといっても、時定数Tが長ければ制御できます。すなわち制御の難しさのキーワードはL/Tであり、これが小さいほど自動制御はしやすく、大きければ難しいとされています。そこで、むだ時間対策としてもっとも簡単なのは、制御対象の時定数を長くする方法です。前回示した濃度制御の例では、濃度検出器を適当な大きさのタンクに入れれば、制御はしやすくなります。 (4)速い外乱に対する対策 前回に説明したように、フィードバック制御は外乱の影響をなくすのに、それなりの時間を必要とします。そのため、速い外乱に対応することはできません。この対策の一つに前回説明したフィードフォワード制御がありますが、どちらかといえば無理に対応しない方がよいときが多いのです。 コンベア炉の温度制御において、温度計のチャートに正負の周期的なヒゲが出るという相談を、だいぶ前に受けたことがあります。装置の内容を調べたところ、コンベアの上に載っている物体が熱風の吹込口の下を通過するとき、温度センサに影響を与えていることがわかりました。その物体はすぐに通過してしまいますが、このときの一時的な温度変化に調節計が反応して出力を変化させるため、しばらくしてから逆方向に温度が変化したのです(図11.6)。この問題は、温度調節計の入口に一次遅れフィルタ(第11回参照)を入れることで一応解決しました。これは、調節計に速い外乱を無視させたことになります。 11.2 PID制御の限界と対策 標準的なPID制御では、自動制御の目的に完全には対応できない場合があります。主なものをあげると、下記の2つのケースです。 ①目標値変更時の追従特性と、外乱抑制特性とを共に最適に調整することができない。 ②プロセスをスタートさせ、できるだけ速く目標値までもって行き、かつ測定値が目標値をオーバーすることを防ぐことは難しい。 ①の対策には、2自由度制御系が考案され使用されています。また②の対策には、ファジィ制御が使われています。 今回は①について説明します。 (1)目標値変更時の特性と外乱抑制特性を両立させる制御手法 まず、この2つの特性がなぜ両立できないかを説明します。 標準型PID制御システムのブロック線図を図11.7に示します。ここで注目したいのは、目標値がブロック線図に入る位置と、外乱が入る位置とが違うことです。そのため、目標値の変更の影響が測定値に現れるのと、外乱の影響が測定値に現れるのでは状況が違います。したがってPID定数の最適調整値も違います。 第5回の表4.1のうち、Chien、Hrones、Reswick3氏のPID動作の分だけを抜出して表11.1に示します。これを見ると、外乱への対応と目標値変更への対応では、かなり異なることがわかります。外乱への対応の定数値を使用すると、目標値変更時にはオーバーシュートするし、逆にすると外乱抑制が不充分になります。 調節計の使用目的は主として外乱の抑制ですが、当然時々は目標値を変更するので、目標値変更時の追従特性も重要です。この両者の両立を実現した制御手法が、2自由度制御です。2自由度というのは、上記の2つの特性を独立に調整できるという意味です。 2自由度制御方式を組込んだ製品は、日本では約10年前から市場に出ています。2自由度制御方式の代表的なブロック図を図11.8に示します。(a)の目標値フィルタ型を例としてこの機能を説明します(なおこの調節計は、測定値微分型PIDを採用しています)。目標値のあとにあるフィルタは、1次遅れをいくつか組合せたフィルタで、目標値の変更による応答を抑制し、オーバーシュートを防ぎます。PID定数の調整は、PID部にて外乱抑制のための最適調整値を用いて行い、目標値変更時の追従特性は、フィルタ部で行います。ここではα、β、γの3つの定数を導入して調整します。 PIDの各定数を調整するだけでも面倒なのに、さらに3つの定数を調整するのは容易ではありません。そのため最近は、α、β、γは通常の条件ではほぼ最適と思われる値をメーカーがリコメンドし、ユーザーはPID定数だけを調整すればよいという考え方の製品も出ています2)。 ■ ◆ 参考・引用文献 ◆ 1)松山 裕:だれでもわかる自動制御、省エネルギーセンター(1992) 2)広井 和男:実戦ディジタル制御技術、工業技術社(1992) |
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