エムエスツデー 2013年1月号

システムの機能維持とランニングコストの削減を実現したリプレース
奈良県天理市上下水道局の水道設備遠隔監視に採用された
テレメータD3シリーズ
(株)エム・システム技研 システム技術グループ
今回は、奈良県天理市上下水道局の豊井浄水場を訪問し、水道設備の遠隔監視に採用されているテレメータについて、天理市上下水道局浄水課の藤本 洋平 様、島田 佳則 様、中川 和也 様、設計に関してアドバイスされた日本上下水道設計(株)秋山 義宏 様、(株)ノバテック 代表取締役の中楯 辰雄 様にお話を伺いました。
15年経過した既存システムをリプレース
2011年3月に更新された中央監視制御システムの更新の経緯をお教えください。
[藤本様]既存システムでは1995年に中央管理センターを設立し、約15年にわたり運用してきましたが、環境変化に伴う運用効率の低下に加え、システムとしての健全性の確保が困難となったため、更新を決断しました。
更新にあたっては、給水収益が極端に減少する中で、運用面での安全性、従来システムがもつ安定性を確保しつつ、効率的な運用による監視の容易性とランニングコストの低減が得られるシステムにすることとしました。
そこで、更新にあたっては従来の設備仕様とは異なり、ハード面では安全性はもちろんのこと、汎用性(とくに監視情報の受け渡しが比較的容易に行えること)、システム更新価格の優位性、部品供給の継続安定性、システムに関する仕様内容が公開されていること、将来機器仕様が変更される場合の実質継続性などを考慮しました。
ソフト面においては、従来のシステムから重要でないと判断した情報の点数を大幅に削減してコスト削減を図ることを目指しました。結果は、アナログ信号を592点から360点へ、デジタル信号を3558点から1920点へ、積算信号を269点から124点にまで削減することにしました。
各階層の通信を容易に行えるように上位通信方式はEthernet、MELSECNET/H、下位通信方式はMELSECNET/H、CC-Link(Ver.2)を採用することにしました。
従来のシステムは、2箇所の浄水場と取水、送水、配水系統および水質監視装置など点在する各施設を一元管理し効率的に運用するために作られた高いレベルの複雑なものでした。
今回の更新に際してはコスト面を考慮した結果、従来段階的に統合してきたシステムを逆に切り離すことにしました。すなわち、取水ポンプ施設遠隔監視システム、浄水場の運転制御システム、水質監視装置システムの3システムに分けることにしました。
取水ポンプ施設遠隔監視システムのテレメータ13対向分は、2006年にエム・システム技研製「コンパクトテレメータ(形式:22LS1、22LA1など約130台)」に更新しており、すでに先に述べた項目について満足しうるものであることを確認できていました。
その結果、今回の中央監視装置システムの更新に際しては同じメーカーであるエム・システム技研製の多目的テレメータD3シリーズを採用することにしました。テレメータD3シリーズは通信媒体として私設のツイストペア線や光ファイバ線、特定小電力無線などに対応しています。今回は、NTT専用回線(帯域品目1200bps)を使用するためモデムインタフェースカード(形式:D3-LT1)を選定しました。プログラムレスでフレキシブルにシステムが構築できる点が気に入りました。そのため、親局側ではI/O機器は設置せず、PLCとCC-Link(Ver.2)対応の通信カード(形式:D3-NC3)を使用しました。
28対向分ものテレメータがありましたので、危険分散するため、各ブロック毎に、それぞれ三菱電機製PLCを設置し、6台のPLCに分散して接続することにしました(図3参照)。
図3 システム構成図[拡大図]
故障箇所の素早い復旧が可能に
今回、下位の現場側システムについては誰でもメンテナンスできる仕様にされたのですね。
[藤本様]故障時の修理・復旧作業やメンテナンスを施工業者のみに委託するのではなく、他の業者においてもできるようにしました。
また、テレメータも同様に保守品をあらかじめ持っておくと、故障箇所の特定ができるため、素早い復旧ができるようになりました。
リプレースによる省スペース化
数年前に導入したコンパクトテレメータ盤(図2)と比べると、I/O機器がない分、盤内部自体もすっきりしていますね(図1)。
[藤本様]今回リプレースすることにより、既設では34面の盤がありましたが、結局21面削減できて、13面となり、電気室の約1/3を占めるだけになりました。空いたスペースは別の用途で有効に使いたいと考えています。
サーバ、クライアント方式の監視システム
上位の監視システムのSCADAソフトウェアについてお教えください。
[藤本様]既設の監視装置では個別にソフトを構築していたため、機能増設などが生じた場合、ソフトの変更費用も大きな負担となっていました。更新後は、サーバ、クライアント方式を採用しました。その結果、サーバ側にてシステムを構築するだけで済むように変更しました。
サーバについては24時間連続稼働が可能な 産業用コンピュータを採用し、しかも2重化構成にするなど信頼性の確保についても考慮しました。
夜間電力の使用による電力料金の削減
今回の更新に際して、その他に配慮された点はありますか。
[藤本様]山間部の送水ポンプ場においては自動運転による夜間電力を使い、電力料金の削減にも配慮しました。対象となった機場には配水池まで3段階加圧して送水する送水ポンプ場があり、配水池の貯水量を夜間にて満水にすることにしました。
その結果、電力料金は月約15万円の削減が実現できました。
システム維持とランニングコスト削減の両立を達成
東日本大震災の影響を受け、昨今の電力供給が切迫している状況で、昼間ピーク電力の削減に協力することにもなりましたね。
[藤本様]結果的にそのとおりになりました。集中監視制御、水運用計画および配水制御といった機能をサーバ+PLCといった一般に広く普及している機器の組合せで構築したシステムですが、現在順調に稼働しています。
昨今の景気後退の厳しい状況下で、水の需要も落ち込んできています。これに対応して、市民にとって安心・安全なシステムの維持とランニングコストの削減を達成しました。
今後もお問合せなど不明点については電話で対応させていただきます。ご不明な点がありましたら、どしどしエム・システム技研ホットラインまでお電話ください。
お忙しいところ、ありがとうございました。

【奈良県天理市のご紹介】
天理市は奈良県の北中部、奈良盆地の東部に位置し、西名阪自動車道、名阪国道、京奈和自動車道、JR、近鉄など、交通の便に恵まれた地に立地します。大阪へ鉄道で約1時間の距離でありながら、日本最古の道“山の辺の道”を中心に万葉のロマンに触れることができるところです。大和朝廷誕生の謎を秘めた場所であり、“邪馬台国の畿内説”に関する具体的な所在地であるかもしれません。“山の辺の道”付近には、卑弥呼(ひみこ)の鏡といわれる三角縁神獣鏡(さんかくふちしんじゅうきょう)が出土した黒塚古墳など数多くの古墳が点在していて、訪れる人々を古代ロマンの世界へと誘う夢の散歩道もあり、観光についても魅力的な市です。
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