1998-1999年計装豆知識
- PROFIBUS(プロフィバス)/1999.12
- Modbus(モドバス)/1999.11
- イーサネット/1999.10
- RS-232/485規格/1999.9
- 画像データの圧縮技術/1999.8
- PID調節計の採用条件/1999.4
- ワイパーのないポテンショメータ、インダクポット/1999.3
- 交流の表現と演算方式/1999.2
- HART(ハート信号)(2)/1998.12
- HART(ハート信号)(1)/1998.11
- 温度、流量、圧力、レベル測定とPID制御(2)/1998.10
- 温度、流量、圧力、レベル測定とPID制御(1)/1998.9
- 変換器の小形化とタンタルコンデンサ/1998.8
- 熱電対と熱電対信号変換器(2)/1998.7
- 熱電対と熱電対信号変換器(1)/1998.6
- 温度センサの選択と設置(2)/1998.5
- 温度センサの選択と設置(1)/1998.4
- ファジィ/1998.3
- 配線とノイズ(3)/1998.2
- ノンインセンディブ規格(NON-INCENDIVE)/1998.1
エムエスツデー 1998年11月号
HART(ハート信号)(1)
HARTとは
プロセス計装において、差圧変換器、温度変換器などの発信器や、調節弁などの操作端はフィールド機器と総称され、工場内に多数配置されています。これらのフィールド機器と調節計、表示計などの受信機器との間には個々に信号線が敷設されていて、この線を通して4~20mA DCのアナログ信号が伝送されます。この方式は、1950年代末から次第に確立した標準方式であることは皆様ご存知のとおりです。当然のことながら、この場合は信号線ごとに温度、流量、圧力などの測定信号または弁開度などの制御出力信号のような単一変数だけが伝送されます。
この4~20mA DC信号にデジタル信号を重畳して、多数の信号を伝送する方式が12~13年前から始まり、最近、欧米で広く使用されるようになりました。デジタル信号の中には、まず4~20mA DC信号で送っている変数の実用単位での値が1次信号としてあります。差圧センサとRTDを組合せた差圧変換器では、流体の静圧、温度およびこれらを使って計算した質量流量などが、それぞれ2次、3次、4次信号として送信されます。そのほか、測定点の測定点番号(TAG NUMBER)、測定点名(TAG NAME)なども送信できます。あまり知られていない信号として、発信器への出力指定信号があります。たとえば「出力信号を10mAに設定」という指令を発信器に送ると、入力信号に関係なく、出力を10mAにすることができます。
このような方式を実現した発信器や操作端をスマート機器、その通信方式をスマート通信と一般に呼んでいます。スマート信号は、大手メーカー各社が独自のものを作り出しました。その中で業界標準方式として世界的に普及しているのがHART(Highway Addressable Remote Transducer)です。これは、米国のローズマウント社が提唱し普及が図られました。現在では、特定の企業色を排して計装業界のオープンな共有財産となり、その中心にHCF(HART Communication Foundation)が組織され、70社を超えるメーカー、ユーザーが加盟して活動しています。その成果として300機種にのぼるHART機器が実用に供されています。
HART実現の仕組み

図1 HARTコミュニケータ
(HCF発行のHART LINE誌より転載)
① 測定信号、制御出力信号などの4~20mA DC直流アナログ信号に交流デジタル信号を重畳させ、このデジタル信号でフィールド機器と携帯型通信ターミナル(HARTコミュニケータと呼ぶ)との間の通信を実現することによりさまざまな情報のやりとりが可能になります。図1にHARTコミュニケータの写真を示します。現在では、Honeywell社製品以外の主なDCSでは、HART信号を取り扱えるようになっています。
② フィールド機器とHARTコミュニケータの両方にマイクロコンピュータとHARTモデムを搭載することによって ①のデジタル通信が実現されます。HARTモデムによって発信器側で信号の重畳を行い、受信計器側ではフィルタによって交流信号を分離して直流アナログ信号を取り出します。また、HARTコミュニケータでは、交流成分からもとのデジタル値を取り出します。HARTコミュニケータをパソコンに置換えれば、さらに良好な操作性を得ることができます。
次号では、具体的なHARTの仕組みと応用例を説明します。