2012-2013 計装豆知識
エムエスツデー 2013年1月号
避雷器と耐雷トランスの違いについて
電子機器を雷サージから守る機器である避雷器と耐雷トランスの主な違いをご説明します。
耐雷トランスは、ノイズカットトランスと避雷器または避雷素子とを組み合わせた構造をしているため、避雷器と耐雷トランスとの違いを説明する前に、まずノイズカットトランスについて説明します。
ノイズカットトランス
ノイズカットトランスは、通常、インバータやモータから発生するノイズによって、他の電気・電子機器が悪影響を受けるのを防ぐために使用されます。
ところで、ノイズや雷サージは、伝わり方によってコモンモードとノーマルモードとに分けられます。2本の電源ラインとグランドラインの間に侵入し、2本の電源ラインに対して同じ方向に進むものをコモンモード、電源ライン間に侵入し、2本の電源ラインを反対方向に進むものをノーマルモードと表現します。
ノイズカットトランスは、これらのノイズが2次側に侵入するのを抑制します。コモンモードの場合、低周波(数十kHz)のノイズであれば、絶縁トランスでもある程度は減衰します。しかし、ノイズの周波数が高くなるに従ってトランスの1次側2次側間に存在する静電容量が原因で、ノイズの2次側への侵入が増加します。ノイズカットトランスは1次側コイルと2次側コイルの間に静電シールドを施し、それを接地することによって、ノイズの侵入を防ぐ構造をとっています(図1)。
ノーマルモードについては、そのまま2次側に出力するのがトランスの特性なので、本来トランスにはノーマルモードノイズの抑制効果はありません。ノイズカットトランスは、雷によるノイズの周波数が商用電源の周波数(50/60Hz)と比較して非常に高いことに着目し、電源の低い周波数は通過させ、高い周波数を減衰させるフィルタ特性をもたせることで、ノーマルモードのノイズを抑制しています。
このようにノイズに対してはノイズカットトランスがとても有効です。
しかし、そのまま雷サージ対策用として使用するには注意が必要です。雷サージは、インバータやモータから発生するノイズと比較して、はるかに高いエネルギーである場合が多く、トランスの絶縁を破壊してしまう恐れがあるからです。
耐雷トランス
耐雷トランスは、トランスと避雷器を組み合わせた構造をとっています(表1の結線図参照)。コモンモードで侵入してくる雷サージによる絶縁破壊を防ぐため、耐雷トランスで使用するノイズカットトランスは1次−2次間の耐電圧が通常のものより大きく設計されています。さらに避雷器や避雷素子を組み合わせることで、1次−2次間の耐電圧を高めています。またノーマルモードの雷サージに対しては、トランスの前段に避雷器を配置することによって、大部分の雷サージを避雷器に処理させています。保護性能を高めるため、さらに2次側にも避雷器やコンデンサを追加したタイプの耐雷トランスもあります。
避雷器と耐雷トランスの違い
耐雷トランスを使用することで、避雷器単体より保護性能の強化が期待できます。とくに、コモンモードの雷サージに対しては高い保護性能をもちます。また、耐雷トランスは文字どおり変圧器なので、電圧変換機能を併用したい場合には便利です。
一方、避雷器の保護性能は、被保護機器の耐電圧を考慮し2次側に出力される雷サージを1500V程度に抑制することで電気・電子機器を保護しています(単相100V、200Vの電気・電子機器は、1500V程度のインパルス耐電圧をもつように設計するのが一般的です)。
高い保護性能を期待できる耐雷トランスですが、デメリットもあります。耐雷トランスは、その性能を引き出すために、一次側と二次側に引き出された接地端子をそれぞれ別の接地極に接続する必要があり、接地極間には数mの間隔が必要です。とくに1次側の接地極は、トランスの絶縁破壊を防ぐため、接地抵抗を数十Ω以下にする必要があります。このような接地工事の煩雑さが、耐雷トランスを気軽に導入できない背景になっています。
以上から、避雷器と耐雷トランスを使い分ける場合、保護効果と導入コストのバランスをとることが必要になってきます。高価で重要性も高く雷サージに弱い製品を保護する場合には耐雷トランスが安心ですし、逆に一般的な電気・電子機器であれば、費用対効果の面で避雷器を使うのが適当だと考えられます。
通 信 | 避雷器 | 接地箇所 |
---|---|---|
結線図 | ![]() |
![]() |
形状と質量 | 小(W60×H100×D60mm程度) 0.5kg程度 |
大(W300×H300×D300mm程度) 小さい物でも20kg程度。 電源の電流容量が増えるとさらに大型化 |
保護性能 | 規定した制限電圧(1500V程度)に制限 | 2次側に出力される雷サージを1/100〜1/1000分に減衰。 コモンモードの雷サージに特に有効 |
接 地 | 避雷器と被保護機器との渡り配線 の接地は共通 |
1次側と2次側の絶縁を保つため、それぞれを別の接地極に接地 |
設 置 | 小さく、軽量なので、被保護機器と同じ盤内に設置可能。 通常の接地工事で可 |
大きく重いので、耐雷トランスの設置場所が限定される。 2箇所の接地工事が必要 |
その他 | 並列接続形避雷器であれば、電流容量の制約がない | 電圧変換が可能 |
【(株)エム・システム技研 開発部】