エムエスツデー 2006年3月号

100BASE-TX/10BASE-T対応
Ethernet用避雷器(形式:MDM5E-A)
(株)エム・システム技研 開発部
は じ め に
エム・システム技研では、創業以来、電子機器専用避雷器「エム・レスタ」シリーズの製造・販売を行なって参りました。
その種類としては、標準信号用、センサ入力用、各種通信信号、回線用、電源用など、様々な用途のものがありますが、中でも、近年とくに開発に力を入れておりますのが、オープンネットワーク用の避雷器です。
通信ネットワークは、配線作業やシステム拡張の簡便さ、およびオープン化に伴う利用メリットを反映して、その利用が急速に増大しています。また、このような状況は、素子の高密度化を支える半導体技術の進歩を背景としているため、イミュニティ(耐力)の低い電子機器の普及に伴い、雷サージなどの過電圧による被害が増大してきました。
エム・システム技研では、このような時代の流れに対応して、リモートI/O装置やプロトコル変換器など、ネットワーク計装用の各種の機器を開発しご提供して参りました。
避雷器に関しても、オープンネットワーク用として避雷効果の高い製品を開発し、取り揃えて参りました(表1)。
そしてこのたび、かねてよりお客様からのご要望が多かったEthernet用避雷器(形式:MDM5E-A)を販売開始します。本稿では、このMDM5E-Aの仕様、性能および特長などをご紹介します。
表1 各種ネットワーク用避雷器
オープンネットワーク | 対 応 避 雷 器 | ||
形 式 | 特 徴 | 外 観 | |
Ethernet | MDM5E-A (本稿紹介新製品) |
10BASE-T/100BASE-TXに対応 | ![]() |
DeviceNet | MD-DNM/MD-DNS | 伝送速度500kbps対応。 信号・電源間の協調をとった保護 |
|
ADSL | MAM-100L/MAM-200L | 通信および電源ラインの保護を一体化 | |
Modbusなど 電気的仕様が RS422/RS485に 準拠したネットワーク |
MDP-4R | 広帯域に対応 (動作減衰量:−0.5dB以下@DC~2MHz) |
|
MDW2A-4R | 寿命モニタ機能付(開発中) | ||
MDW5-4R | 全二重式(開発中) | ||
LONWORKS | MDP-LWA | トランシーバ FTT-10A用 | |
PROFIBUS-PA | MDP-PA | 非防爆仕様 | |
HART | MDPA-24 | 寿命モニタ機能付 |
1.Ethernet用避雷器の必要性
さて、イーサネットは、果たして誘導雷サージの影響を受けないのでしょうか?
誘導雷サージが雷による電磁界の急変によって発生するのに対して、イーサネットは一般に屋内配線であることから、誘導雷サージに対しては安全であるようにいわれています。
しかし、これは電磁波に対する十分な遮蔽が期待できる建物に限られると考えられます。ある文献に『1km離れた場所に30kAの中程度の落雷があった場合、地面から10mの高さに配線された電線には10kV以上の誘導雷サージが発生する』と記されています。これは、屋外配線に対する値ですが、雷の電磁気的エネルギーはこのように強大であるため、たとえ屋内配線であっても、建物壁をすり抜けてくる電磁波のため、誘導雷の不安は皆無ではありません。
さらに近年、機器の小形化、半導体のLSI化に伴い、電子機器はノイズや雷サージに対して脆弱になっています。以上の考察から、イーサネットにおいても避雷器の設置が望ましいことがおわかりになるでしょう。
また、ネットワークに接続される機器は、すべて1本のケーブルでつながっています。
ネットワークに雷が侵入すると、ケーブルにつながるすべての機器が影響を受けます。したがって、被害は1台だけに止まらず、ネットワーク全体に「芋づる式」に波及する恐れがあります。
たとえ、幸運に被害が1台だけで済んだとしても、それがもしホストコンピュータであればネットワーク全体が機能を失うことになります。
そして工場なら、生産ラインの停止に至ります。そうなれば、雷による損害は、単に機器の修理費だけにとどまらず、その何倍もの規模に達することになるでしょう。
雷の脅威から大切なシステム、設備およびデータを守るためには、やはり避雷器の設置は欠かせないのです。
2.MDM5E-Aの仕様、性能、特長
Ethernet用避雷器 MDM5E-Aは通信に影響を与えないことは当然のことながら、下記のような仕様、特長をもっています。
(1)仕様、性能
表2に主な仕様と性能を示します。
表2 MDM5E-Aの主な仕様と性能
線 間 | 線 − 接地間 | シールド − 接地間 | |
放電開始電圧 | ±6 Vmin |
±150 Vmin |
±150 Vmin |
制限電圧 | 38 Vmax |
±600 Vmax |
±600 Vmax |
応答時間 | 4 ns以下 |
20 ns以下 |
20 ns以下 |
放電耐量 | 500 A(8/20 us) |
500 A(8/20 us) |
5000 A(8/20 us) |
洩れ電流 | 0.1 mA以下@DC6 V |
5 uA以下@±DC150 V |
5 uA以下@±DC150 V |
直列抵抗 | 約 0 Ω | ||
インパルス耐久性 | カテゴリC1対応※ | ||
最大線間電圧 | ±6 V | ||
伝送特性(減衰量) | 1.5 dB(1~100 MHz) | ||
※ IEC61643-21(JIS C 5381-21)規格 |
(2)特 長
• イーサネット・インタフェース仕様については、普及率の高い10BASE-Tおよび100BASE-TXの両規格に対応しています。
• 付属ケーブルとして50cmのSTP(シールド付より対線)、カテゴリ5eケーブルを同梱しています。
• 近年、世界経済のボーダレス化が進み、物・サービスの国際取引が増大し、ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)などの国際規格への適合性が重要視されています。
MDM5E-AはIEC61643-21(JIS C 5381-21)規格注1)に準拠しているため、グローバルにお使いいただけます。また、RoHS指令注2)にも対応し、環境負荷を配慮した製品になっていますから、安心してご使用いただけます。
• DINレール取付に対応し、FA現場での使用を考えて、ワンタッチでDINレールに取付けられるように設計しています。特別な加工や金具も必要ありませんから、簡単に設置することができ、取付作業のコストダウンが図れます。
また、本機器はコンパクトサイズ(W25×H97×D41mm)設計であり(図1)、他の機器の設置を妨げることなく、空きスペースに配置できます。
• MDM5E-AはRJ-45モジュラジャック接続であるため、既設のネットワークケーブルを切断することなく、スムーズに避雷器の設置を行なうことができます。
• ショートバーにより、接地方式を選択できます。
ご承知のようにLANケーブルには、シールドの有無によりSTP(シールド付より線)、UTP(シールドなしより線)の2種類があり、パソコンやPLCなどの被保護機器にもシールド、FG(筐体接地)、SG(信号用接地)の有無など様々なケースが考えられます。ショートバーが付くとFG(シールド)はグランディング、外すとFG(シールド)はフローティングになります。
通常はグランディングですが、フローティングにすると、アースからの回り込みを回避したり、FG(シールド)を避雷用接地でなく、信号用接地として別接地したいケースに対応できます。
なお、シールドはFGにつながっているため、グランディングでなくても誘導ノイズの影響は小さいと考えています。また、工場出荷時はショートバー接続状態(グランディング状態)になります。設置例を図2に示します。
お わ り に
以上、Ethernet用避雷器 MDM5E-Aについて、簡単にご説明しました。
エム・システム技研では、お客様のご期待にお応えするため今後もオープンネットワーク用避雷器に限らず、多種多様な避雷器を開発していく予定です。また、雷サージは通信ラインだけでなく電源ラインからも侵入します。電源用避雷器のご使用も併せてご検討いただきたく、よろしくお願いします。
注1)通信および信号回線に接続するサージ防護デバイスの所要性能および試験方法。
注2)RoHS指令については、『エムエスツデー』誌2005年1月号の「計装豆知識」をご参照ください。
*エム・レスタは、エム・システム技研の登録商標です。