エムエスツデー 2007年3月号
ハブを替えるだけでネットワークはグンと安全になる!
避雷機能付 8ポートスイッチングハブ(形式:SHSP)
(株)エム・システム技研 開発部
今 西 佳 量
は じ め に
Ethernetは、最も汎用的な情報通信ネットワークとして至る所で広く使用されています。オフィスだけでなく、PAやFAの現場においても、PLCなどの制御機器間やHMI(Human Machine Interface)との通信に数多く利用されています。将来的にも、工場におけるEthernetの使用は、Ethernet機器の低価格化と音声・画像を含めた高密度データを通信できるメリットとから、ますます増加の一途をたどると予測されます。
一方、異常気象が原因でしょうか、雷被害の発生件数が急増し、社会的また経済的に大きな損失を生じています。エム・システム技研にも、「雷が原因と思うのですが、最近スイッチングハブの故障がよく起こります。何か対策はありませんか」といったお問い合わせをいただくようになりました。
そこで今回開発を進めているのが、避雷機能付 8ポートスイッチングハブ(形式:SHSP)です。SHSP は、電磁的特性、耐振動、広範囲な使用温度など従来から産業用スイッチングハブに求められていた性能だけでなく、避雷機能を加えることによって、より信頼性の高い製品に仕上げています。
以下に SHSP についてご紹介します。
1.外 観
図1に SHSP の外観を示します。盤内設置に配慮して、縦置きで幅をとらないようにしました。8ポートでありながら、ケースは幅40mmに抑えています。
2.機能と特長
SHSP の数多い機能と特長を以下に列挙します。
(1)100BASE-TX/10BASE-Tに対応しています。
全ポートにAuto-Negotiation機能(100M/10M、Full Duplex/Half Duplex自動切換)、およびAuto- MDI/MDI-X機能(ストレート/クロス自動切換)を標準装備しているため、ネットワークの構築および接続機器の変更が円滑に行えます。
(2)シリアルポートにパソコンを接続することで、Auto-Negotiation機能のON/OFF設定(OFF時は100M/10M、Full Duplex/Half Duplexの設定)が各LANポートごとに行えます。
これはAuto-Negotiationに対応できない古いLANアダプタを搭載した機器と接続する場合や、ケーブル条件などのためポートごとに意図的に帯域制限を設けたいときに有効です。その他、本器の内部状態をモニタできます。
(3)全ポート避雷機能付です。
全8ポートに避雷機能が付きます。
IEC61000-4-5(EMC-Surge immunity test)では、建築物非密集地域に敷設した屋外ケーブルに接続する場合を、雷被害的に最悪条件と想定し、この場合の雷サージ試験の基準レベルを4kVとしています。
しかし、誘導雷の大きさは、雷の規模や敷設条件によって大きく変わり一義的には決められません。LANケーブルが屋内配線ではあるものの、より余裕をもたせるために雷サージ試験レベルを10kVとし、さらに過酷なレベルでも耐えられるようにしました。 なお雷被害の心配がない場合には、「避雷機能なし」を形式上で選択できます。
(4)避雷回路の寿命状態をLEDで表示します。また、接点出力を備えていて、交換時期、破損状態、停電などを遠隔管理できます。
(5)耐環境性に優れています。
• CE EMC指令に準拠の予定
• 耐振動性(掃引): 10~150Hz/1G 注1) X、Y、Z方向 各80分
• 使用温度範囲:−5~+60℃
(6)環境保護に配慮したRoHS 注2)対応です。
(7)便利な35mmDINレール取付けに対応しています。
(8)電源、接点出力、接地端子には 信頼性が高いねじ端子を採用しています。
(9)電源供給には、かさばるACアダプタを必要としません。
制御盤内にあるDC24Vを直接接続してください。
(10)電源端子を2組備えているため、電源の冗長化が図れます。
(11)省電力設計です。 (最大負荷時電力:実力5.3W)
また、放熱性の高い金属ケースの採用によって機器の内部蓄熱を抑え、信頼性を高めています。
3.Ethernetでの避雷対策の必要性
Ethernet機器は、一般にLANケーブルが屋内配線であることから、雷被害に対して無縁であるようにいわれています。しかし、屋内配線を理由に安全といえるのは、電磁波に対して十分な遮蔽が期待できる建物内に限られます(図2)。
ある文献には、『1km離れた場所に、30kAといった中程度の落雷が発生した場合、地面から10mの高さに敷設された電線には、10kV以上の誘導雷サージが発生する』と記されています。これは、屋外配線に対する値ですが、雷の電磁気エネルギーはこのように強大であるため、たとえ屋内配線であっても、遮蔽が十分でなければ、建物壁を通過して侵入する電磁波によって、ケーブルに誘導雷サージが発生することになります(図3)。
あるいは、避雷針と接地極を結ぶ避雷導線に落雷電流が流れ、そのとき発生する強磁界が、やはり建物壁を通り抜け、避雷導線に平行に敷設されたLANケーブルに大電圧を誘発することになります(図4)。
また、LANケーブルから誘導雷サージが侵入しなくても、接地間電位差が問題になることがあります。工場のように広大な建物内でEthernet機器を使用すると、襲雷時には各設置点ごとに接地電位が不均等になります。これに対して、各Ethernet機器はLANケーブルでつながっているため、接地電位の差が過電圧としてEthernet機器にかかることになります。
これらのLANケーブルに重畳した誘導雷サージや過電圧によって、そこにつながるEthernet機器は破損してしまうことが考えられます(図5)。
ハブはネットワーク形態上、核になる部分です。ここを壊れないようにしなければ、雷被害はネットワーク全体に波及します。エム・システム技研は、ここに着目し、以上の危険をまとめて予防するため、SHSP を開発することにしました。
なお、SHSP の避雷機能はLANポートにだけ施しています。電源端子については、別途、電源用避雷器を設置し、他の電子機器もまとめて一括で保護してください。接点出力については、遠方に伝送する場合に限って、別途避雷器を設置してください。
お わ り に
Ethernet機器が絶縁破壊され、機能が停止すると、事務作業や工場の操業が停止に至ることもあります。そのような事態では、単に機器の修繕費だけでなく、その何倍もの損害を被ることになります。高度情報通信社会を維持していくには、Ethernet機器の避雷対策は欠かせないものと考えます。
避雷機能付 8ポートスイッチングハブ SHSP は、今春発売を予定しています。ぜひ、SHSP の採用についてご検討ください。
注1)加速度単位、G=9.81m/s2
注2)RoHS:『エムエスツデー』誌2005年 1月号「計装豆知識」参照。