エムエスツデー 2009年6月号

LONWORKS用
電力マルチメータ(形式:54UL)
(株)エム・システム技研 開発部
は じ め に
電力マルチメータ「54・UNITシリーズ」については、すでにご好評をいただいていますが、今回LONWORKS対応タイプ(形式:54UL)を新しく加えましたのでご紹介します。
1.54・UNITシリーズ
最初に、54・UNITシリーズの概要をご説明します。
54・UNITシリーズは110角の表示部をもつ4点指示形の電力マルチメータで、発売以来多くのお客様にご好評をいただいています。
電力マルチメータとは、その名の示すとおり1台で電圧、電流、電力など複数項目の計測値を表示する計測器で、54ULを含む多くの製品は、これら計測値の伝送機能をも備えています。
従来、単項目計測のメータを多数必要としたケースに対しても1台で済み、また計測した任意の計測項目値を伝送できることから、すなわちその利便性とコストパフォーマンスのゆえに、近年ますます需要が高まりつつあります。
2.LONWORKS
まず、LONについて簡単にご説明します。LONはLocal Operating Networkの略であり、米国ECHELON社によって開発されたオープンネットワークです。LONWORKSとはLONを構成するすべての機器の総称であり、使用される通信プロトコルはLonTalkと呼ばれ、OSI(Open Systems Interconnection、オープンシステム間相互接続)参照モデルの7層をすべてサポートしています(LONWORKSの詳細については、『エムエスツデー』誌2001年11月号「計装豆知識」をご参照ください)。
LONWORKSの大きな特長として、各ノードにマスタ、スレーブの関係がなく、自律分散制御を可能にしていることが挙げられます。そのために、各ノードにはニューロンチップと呼ばれるインテリジェント素子が搭載され、制御プログラムが書き込まれます。ニューロンとは神経細胞を意味しますから、自律モジュールが神経細胞のごとくつながって行くことをイメージして付けられた名前でしょう。
通信線の結線方式の特長としては、フリートポロジを使用できる点が挙げられます。フリートポロジには結線方法の制約がなく、バス、スター、リング、いずれの結線方式でも選択できます。
フリートポロジ対応のドライバとしては、ECHELON社自身が開発したFT-X1(FTT-10A相当)が、端末機器間の通信において標準的な地位を占めていて、54ULもこのFT-X1ドライバを搭載しています。LONWORKSはとくにBA(ビルオートメーション)で標準的な地位を築いており、空調制御や電力監視に広く使用されています。
54ULのファンクショナルブロックのネットワーク変数を表1~表4に示します。ファンクショナルブロックはノードオブジェクトを除いて4つに分けられます。表では割愛していますが、それぞれのオブジェクト毎にコンフィギュレーションプロパティが割り付けられ、送信間隔と電源ONディレーと動作モードの設定が可能です。動作モードの設定では、そのファンクショナルブロックの測定項目を一度に送信するか、個別に1つずつ送信するかの設定が可能です。ネットワーク変数は、その性格ごとにオブジェクトに分けてあり、以下に特長を説明します。
(1)InstObject(表1)
電流、電圧、電力などの基本的な測定項目をこのブロックに集めています。
他のオブジェクトもそうですが、ネットワーク変数のタイプはすべてSNVT(標準ネットワーク変数タイプ)を採用しており、他の機器とも簡単に接続できます。
表1 InstObject ファンクショナルブロック ネットワーク変数
ネットワーク変数 | タイプ | 説 明 |
nvoAmp1 | SNVT_amp_f | 1線電流 |
nvoAmp2 | SNVT_amp_f | 2線電流 |
nvoAmp3 | SNVT_amp_f | 3線電流 |
nvoAmpN | SNVT_amp_f | 中性線電流 結線方式が三相4線不平衡負荷、または 三相3線不平衡負荷(3CT)のときのみ有効です。 それ以外の結線方式では常に0となります。 |
nvoVol1 | SNVT_vol_f | 電圧1*1 |
nvoVol2 | SNVT_vol_f | 電圧2*1 |
nvoVol3 | SNVT_vol_f | 電圧3*1 |
nvoWat | SNVT_power_f | 有効電力 |
nvoVar | SNVT_power_f | 無効電力 |
nvoCosT | SNVT_pwr_fact_f | 力率 |
nvoHz | SNVT_freq_f | 交流周波数 |
nvoThdAmp1 | SNVT_lev_percent | 1線電流全高調波歪み率 |
nvoThdAmp3 | SNVT_lev_percent | 3線電流全高調波歪み率 |
nvoThdVol12 | SNVT_lev_percent | 1−2線間電圧全高調波歪み率 |
nvoThdVol31 | SNVT_lev_percent | 3−1線間電圧全高調波歪み率 |
*1 電圧1~3は、結線方式により内容が以下のように異なります。 | ||
単相2線 電圧1:1相電圧 | 電圧2:0 | 電圧3:0 |
単相3線 電圧1:1相電圧 | 電圧2:3−1線間電圧 | 電圧3:3相電圧 |
三相3線 電圧1:1−2線間電圧 | 電圧2:2−3線間電圧 | 電圧3:3−1線間電圧 |
三相4線 電圧1:1相電圧 | 電圧2:2相電圧 | 電圧3:3相電圧 |
(2)EnergyObject(表2)
電力量をこのオブジェクトに集めています。有効電力については受送電を分けてあり、また無効電力については受送電とともに位相の遅れと進みに着目して4種類に分けてあります。また、これらのリセット用のネットワーク変数も用意しています。
表2 EnergyObjectファンクショナルブロック ネットワーク変数
ネットワーク変数 | タイプ | 説 明 |
nviResetEnergy | SNVT_switch | { *.* 1}を入力すると、電力量をリセット(0クリア)します。 (*.*は0.0以外の数値) { *.* 1}を連続して入力すると、入力ごとにリセットする ことに注意してください。 |
nvoWhIn | SNVT_elec_kwh_l | 有効電力量(受電) |
nvoWhOut | SNVT_elec_kwh_l | 有効電力量(送電) |
nvoVarhInLag | SNVT_elec_kwh_l | 無効電力量(受電・遅れ) |
nvoVarhInLead | SNVT_elec_kwh_l | 無効電力量(受電・進み) |
nvoVarhOutLag | SNVT_elec_kwh_l | 無効電力量(送電・遅れ) |
nvoVarhOutLead | SNVT_elec_kwh_l | 無効電力量(送電・進み) |
(3)DemandObject(表3)
デマンド電流、デマンド有効電力、デマンド無効電力をこのオブジェクトに集めています。デマンドをクリアするタイミングについては、本体で設定された時間ごとに行う方法とLONWORKSからのネットワーク変数による方法とが選択できます。
表3 DemandObjectファンクショナルブロック ネットワーク変数
ネットワーク変数 | タイプ | 説 明 |
nviUpdateDemand | SNVT_switch | { *.* 1}を入力すると、デマンド時限の区切りとみなし、 前回更新時またはクリア時からの1線電流~無効電力の 各平均値で、デマンド1線電流~デマンド無効電流を 更新します。(*.*は0.0以外の数値) 本器の設定で、一定時間ごとに自動で更新する設定に なっている場合は、本入力にかかわらず、設定時間ごとに それぞれの値が更新されます。 100分間、時間設定または{ *.* 1}の入力いずれの更新も 行われない場合は、自動的に更新が行われます。 { *.* 1}を連続して入力すると、入力ごとに更新することに 注意してください。 |
nviResetDemand | SNVT_switch | { *.* 1}を入力すると、デマンド1線電流~デマンド無効電流 をリセット(0クリア)します。(*.*は0.0以外の数値) { *.* 1}を連続して入力すると、入力ごとにリセットすること に注意してください。 |
nvoDemAmp1 | SNVT_amp_f | デマンド1線電流 |
nvoDemAmp2 | SNVT_amp_f | デマンド2線電流 |
nvoDemAmp3 | SNVT_amp_f | デマンド3線電流 |
nvoDemWat | SNVT_power_f | デマンド有効電力 |
nvoDemVar | SNVT_power_f | デマンド無効電力 |
(4)StatisticsObject(表4)
このオブジェクトには、保守に有用な計測項目を集めています。電圧の最大最小値および電流、デマンド電流、デマンド電力、電流歪み率、電圧歪み率の最大です。これらのリセットもLONWORKSからのネットワーク変数で可能です。
表4 StatisticsObjectファンクショナルブロック ネットワーク変数
ネットワーク変数 | タイプ | 説 明 |
nviResetStat | SNVT_switch | { *.* 1}を入力すると、Max/Min値をリセット (現在値をセット)します。(*.*は0.0以外の数値) { *.* 1}を連続して入力すると、入力ごとに リセットすることに注意してください。 |
nvoMaxAmp1 | SNVT_amp_f | 最大1線電流 |
nvoMaxAmp2 | SNVT_amp_f | 最大2線電流 |
nvoMaxAmp3 | SNVT_amp_f | 最大3線電流 |
nvoMaxAmpN | SNVT_amp_f | 最大中性線電流 |
nvoMaxVol1 | SNVT_vol_f | 最大電圧1 |
nvoMaxVol2 | SNVT_vol_f | 最大電圧2 |
nvoMaxVol3 | SNVT_vol_f | 最大電圧3 |
nvoMinVol1 | SNVT_vol_f | 最小電圧1 |
nvoMinVol2 | SNVT_vol_f | 最小電圧2 |
nvoMinVol3 | SNVT_vol_f | 最小電圧3 |
nvoMaxThdAmp | SNVT_lev_percent | 最大電流全高調波歪み率 |
nvoMaxThdVol | SNVT_lev_percent | 最大電圧全高調波歪み率 |
nvoMaxDemAmp1 | SNVT_amp_f | 最大1線デマンド電流 |
nvoMaxDemAmp2 | SNVT_amp_f | 最大2線デマンド電流 |
nvoMaxDemAmp3 | SNVT_amp_f | 最大3線デマンド電流 |
nvoMaxDemWat | SNVT_power_f | 最大デマンド有効電力 |
nvoMaxDemVar | SNVT_power_f | 最大デマンド無効電力 |
3.54ULの特長
54ULの特長について簡単にご紹介します。
(1)表示器は白色のバックライトを採用していて、黒色表示のコントラストと相まって視認性に優れています。
(2)電圧、電流の測定精度は0.3% と高精度です。また高調波も31次まで計測可能であり、歪んだ波形をもつ入力についても正確に計測します。
(3)コンフィギュレータソフトウェア(形式:53UCFG)注1)が使用できるため設定作業がきわめて簡単です。
PCとの間の通信には赤外線通信注2)を採用しているため、盤に取り付けた状態で使用できます。また設定内容はCSV形式のファイルで保存できるため、Excelなどの汎用のソフトウェアを用いた保守や管理が容易に行えます。運転状態もベクトル図や、高調波棒グラフなどでモニタできます。
(4)ループテスト機能が付いているため、接点出力のON、OFFが手動で行え、設置時やメンテナンス時に便利です。
おわりに
54・UNITシリーズについては、今後、零相メータ、CC-Linkに対応した製品も順次リリースする予定です。
これからも、より便利で優れたマルチメータに成長させたいと願っておりますので、関係あるご意見、ご要望をお持ちでしたら、ぜひエム・システム技研ホットラインまでお寄せください。
注1)53UCFGは、エム・システム技研のホームページから無償でダウンロードしてお使いいただけます。
注2)赤外線通信アダプタ(形式:COP-IRU)が必要です。