1998年9月号

自動制御入門 第18回

操 作 部(その3)

松山技術コンサルタント事務所 松山  裕

12.2 調 節 弁(前回に続く)

(5)調節弁の正・逆作動
 操作信号(空気作動式なら操作空気圧)が増加するとき弁が閉じるものを正作動、逆に弁が開くものを逆作動といいます。図12.5(第16回)の構造では、操作空気圧が加えられるとバルブプラグが閉じる方向へ動くので、正作動です。
 調節弁の正・逆作動の選択は、空気圧がダウンしたとき弁を全開にする方が安全か、全閉にする方が安全かによって決めます。このような考え方をフェール・セーフ(故障しても安全)といいます。正作動を逆作動にするには、駆動部を変更するか、バルブプラグをひっくり返すかして行います。

(6)調節弁の使用にあたっての注意事項
(a)高粘度流体
 前回Cv値の計算式について説明しました。しかし、この式は流体が高粘度の液体のときには適用できません。この計算式は、流体が乱流状態で流れていると仮定して作られていますので、流体が高粘度のため層流状態になると計算が合わなくなるのです。この問題については、必要により調節弁メーカーに相談してください。
(b)調節弁前後の差圧が大きいとき
 流体が気体で、かつ差圧が調節弁前の圧力(絶対圧)の半分以上になるときは、弁を通過する流量は差圧によらず一定となります。そのため、たとえば下流側が真空の場合では、調節弁のサイズの選定に注意を必要とします。
 また流体が液体の場合、弁前後の差圧が大きいとキャビテーションという現象を起こして、調節弁が損傷することがあります注)。とくに高温高圧で、かつ差圧が大きいときは、キャビテーション対策をした特殊構造の弁を使用する必要があります。

12.3 回転数制御1)

(1)回転数制御による流量操作の原理
 調節弁により流量を操作すると、流体に圧力損失を発生させるので、必ずエネルギー損失を生じます。しかし、ポンプの回転数を変化させて流体の流量を操作すれば、エネルギー損失を生じません。原理図を図12.11に示します。すなわちポンプ(渦巻ポンプと仮定します)の回転数をN1からN2に変化させれば、流量はQ1からQ2に変わり、調節弁がなくても流量を操作できることがわかります。ポンプの軸動力は、(ポンプの吐出圧力)×(流量)÷(ポンプ効率)に比例しますので、調節弁操作をポンプの回転数制御に変更することにより、図の斜線部分に相当する省エネルギーが得られます。
 ここで問題になるのは、配管部の圧力損失と静圧損の比率です。静圧損が大きいときは、ポンプの回転数をほとんど下げられないので、回転数制御のメリットはあまりありません。また、回転数制御装置にも若干のエネルギー損失があります。このときは、次節で説明する台数制御の方が有効です。

(2)容積形ポンプの回転数制御
 容積形ポンプというのは、ポンプ1往復もしくは1回転ごとに一定容積の液体を送り出すポンプです。代表的なものに、プランジャーポンプ(往復動式)やギアポンプ(回転式)があります。このタイプのポンプの特性は渦巻ポンプとまったく異なり、往復数または回転数と吐出流量が比例し、吐出圧力にはよりません。そのため、調節弁を使って流量を操作するときは、図12.12のようにポンプにバイパス弁を設置し、この弁を操作します。
 この方法では、ポンプから出る流量の一部を入口側に戻すので、この流量分がエネルギー損失となります。したがって、回転数制御によってバイパス弁に流す流量をなくせば、やはり省エネルギーになります。このときの流量と圧力の関係を、図12.13に示します。

(3)送風機の回転数制御
 一般工業で主に使用されている送風機は、羽根車を回転させるタイプで、特性は渦巻ポンプとほとんど同じです。送風機では、通常は送風機の吐出側または吸込み側にダンパを置き、これを操作して風量を変えます。これはポンプの場合の調節弁による操作と同じですので、回転数制御に変えれば省エネルギーが図れます。
 (4)回転数制御装置
 ポンプ・送風機の回転数制御にもっとも多く使用されている方式は、かご形誘導電動機にインバータを組合せる方式です。誘導電動機の回転数Nは、下記の式で与えられます。
N = 120×周波数〔Hz〕/電動機の極数  〔rpm〕
 したがって、電動機に加える電源の周波数を変化させれば、回転数を制御できます。この電源周波数の変化にインバータが使用されます。
 インバータは、商用周波数の交流をいったん直流に変換し(コンバータ)、次にこれを半導体スイッチにより任意の周波数の交流に変換します(インバータ)。モータへの供給電源は、モータの負荷に対し十分なトルクを確保するため、周波数のみならず電圧も変化させなければなりません。そのためインバータによる制御方式はVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御と呼ばれています。インバータの基本構成を図12.14に示します。
 汎用インバータに一般に用いられるのは、正弦波PWM制御方式です。これは、半導体素子を高周波でスイッチングさせ、平滑部からの直流電圧を一定周期のパルスに変換し、かつそのパルス幅を変化させて実効値を正弦波とほぼ等しくするものです(図12.15)。パルスの幅を変化させるという意味で、PWM(Pulse Width Modulation)と呼びます。
 インバータの使用にあたっては、モータの負荷特性に注意する必要があります。ポンプ・送風機の場合は、回転速度の2乗に比例してトルク特性が変化するので、この特性に合わせてインバータの特性を選択します。  ■

◆ 参考・引用文献 ◆
1)松山 裕:流体操作技術、省エネルギー、Vol. 45、No. 10、p. 90~96(1993)

注)調節弁前後に大きな差圧がかかると、流体はプラグ部分で加速され、これにより圧力が低下し、流体の一部が気化して泡を生じます。しかし、下流側では圧力が回復し泡はつぶれて消滅します。そのとき周囲の部品が損傷したり、振動や騒音が発生します。この現象をキャビテーションといいます。
松山  裕
松山技術
コンサルタント事務所
所長
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