1999年1月号
ISA EXPO 98レポート1
ISA EXPO 98に見る計測制御の動向(1)
エム・システム技研 顧問/米国MKKインターナショナル 社長 
風早  正宏 
は じ め に
 ISA(Instrument Society of America)は隔年に計測制御展示会を開催します。40年間「ISAショー」といっていましたが、2年前から「ISA EXPO(開催年)」と改名しました。ISA EXPO 98は今年の展示会でアメリカ ヒューストン市で開かれました。なお、前回はシカゴで開かれ、ISA EXPO 96と呼びました。
 本文では
(1)買収、合併にみる計測制御業界の経営的、財務的不安定さ
(2)創業者利益を求めるソフトウェア会社の派手な活動
(3)PCプログラム可変製品
(4)HART プロトコルの普及と Foundation-Fieldbus(F-Fieldbus) 実用化の兆し
(5)複合機能製品
(6)制御計測機能の現場への分散と Remote I/O による入出力部の現場への移動
(7)DCS と PLC との相違の減少
(8)啓蒙的新製品
の観点から、 ISA EXPO 98 の視察見学記の形で計測制御の動向の一端を、今月号から3回にわたりご紹介します。

1.会 場

1.エム・システム技研(M-System Co.)
 視察研修ツアーの会場内集合地点は、エム・システム技研ブースです。Astrohallの入口右手にあります。
 新製品ではみにまる PC プログラム可変変換器シリーズ(モデルM2XT、M2XRなど)、同ユニバーサル変換器(JUA)、エムシスレコーダ ペーパーレス記録計(MSRとMSR-G3入力変換器)、サーボトップⅡプログラム可変電動弁駆動部(PSN)を展示しています。
 アメリカの変換器市場でエム・システム技研の一番の競争相手 Action InstrumentsとRochester Instrumentsのブースの製品に新味が少ないです。今一つの強豪 Moore Industries は、ソフトウェア会社のObject Automation, Incのブースの一角だけに展示机を出しています。これら古参の会社よりPepperl+Fuchs(P+F)、Phoenix Contact、entrelec(この社名はすべて小文字)など最近アメリカ市場に入った会社の方が、変換器では小形化とスマート信号、フィールドバスなどの取り入れで目を引かれます。
 エムシスレコーダでは、エム・システム技研が記録計プログラムを販売し、ユーザーが手持ちの PC にロードして、ペーパーレス記録計として使用してもらいます。アナログ信号もデジタル信号も記録できます。入力信号は MSR-G3 入力ユニットを使ってRS-232-C信号に変換し、 PC に接続します。この記録計はプログラムをロードすると直ちに使える、いわゆるplug&playになっています。これには数多くの引合いが集まっています。
 PSN 電動弁駆動部はパルスモータを使い、プログラムの変更でストローク、モータ最高速度、正逆動作などを変えることができます。
 このように、今回はプログラム可変製品がエム・システム技研ブースのテーマになっています。
 ここには、みにまる変換器とその16連ベース M2BS Installation Baseを Fisher-Rosemount社(F-R)から提供されたDeltaV システムと組合せ展示しています。
 DeltaV システム自身は、昨年東京で開催された INTERMAC'97(国際計測工業展) に出展してありました。ご覧になった方も多いでしょう。この組合せのカタログはF-Rブースでも配っています。
 エム・システム技研はみにまる変換器を DeltaV に供給している実績から、F-R の共栄会社(Complementary Suppliers)の1つになっています。
 ブースの上高くに“M”の会社マークが大きな回り灯籠よろしく回転しています。動く会社のマークは全会場でもここだけで、目を引きます。展示区分ごとに簡明な製品説明が常に小スピーカーから流れています。展示に工夫が窺えます。

2.会場の目抜き部分
 Astrohall に1つと Astroarena に1つと、会場には2つ目抜き部分があります。
 Astrohall 入口正面に、 主な計測制御機器メーカーのブースが集まっています。 Moore Process Automation Solutions(元 Moore Products Co.、前出 Moore Industries とは別の会社)、Foxboro Co.、Elsag Bailey Process Automation(Bailey Control Co.、Bailey Fischer & Porter Co.、Hartmann+Braunなどを含みます)、Siemens Energy & Automation Inc.、Honeywell Inc.、ABB、Fisher-Rosemount(前出 F-R)、Flowserve-Valtek Div.、Endress+Hauser Inc.です。この一角にソフトウェア会社の Total Control Products, Inc.が入っています。
 Astroarenaの目抜き部には Allen-Bradley/Rockwell Automation(A-B と略)、Yokogawa Industrial Automation、Toshiba International、さらにソフトウェア会社のIntellution, Inc.、Wonderware Corpがあります。Intellution は親会社が Emerson で F-R グループの子会社に、Wonderware は Foxboro とともに Siebe の子会社になっていますが、グループとは別に大きな展示をしています。
 どの会社が一番大きなブースをだしているか興味があります。1つの会社で子会社の名前により3、4のブースを構えているものもあり、今回は簡単に判定はできません。たとえば、Siebe会社グループは子会社のFoxboro、Eurotherm、Triconix Corp、Wonderwareなどの名前でそれぞれブースを構えています。
 Wonderwareは隣接する2つのブースを占めて、会場で一番大きな展示場を作っています。IntellutionもTotal Control Productsも床面積で大総合計測制御会社と同等の大きさのブースを占めています。前回のISA EXPO 96から、このようにソフトウェア会社が総合計測制御会社と会場中央部を分けるようになりました。これは計測制御業界でソフトウフェア会社が売上げを伸ばして重要度を上げている現れです。
 特殊な流量計や分析計、あるいは調節弁など、それぞれ必要な特定の製品を探される方以外、一般動向を探索するにはこれら両目抜き部分を見学すれば十分です。

3.F-Rグループ
 会場の目抜き部分だけで15社列挙しました。現在、計測制御会社は似通った製品を作っていますから、 集中的に1会社グループをまず観察すると逸早く技術動向を見取ることができます。 これには、 F-Rのブース、質量流量計の Micro Motion Inc.のブース、Intellution のブースよりなる F-R グループを勧めます。 F-RのブースとIntellution のブースには参観者が詰めかけています。2日目はブースから通路にまで人が溢れていました。
 F-R グループは世界最大級の計測制御機器メーカーの1つですが、巨体になったにもかかわらず活力を失わず、新技術の開発が盛んです。さらに自社が作った HART プロトコルを公開したり、公用性が高い自社特許を一般使用に提供したりと、当業界への貢献度も高い会社です。F-R は最近日本でも営業活動を盛んにしていますから、日本のユーザー自身が自由貿易思想にたって購入窓口を開かれれば、この会社の新技術をいっそう活用できます。
 F-R ブースでは、PlantWeb バスでつながれた DeltaV システムをはじめ、差圧変換器、圧力変換器、温度変換器、さらに電磁流量計などの測定端、長い歴史があって世界的に有名な Fisher 調節弁があります。Micro Motion ブースには、当然同社が業界で先鞭を切ったコリオリ質量流量計が主で、とくに大口径の新コリオリ流量計が以前より小さくなって興味をひきます。Intellution は HMI(Human-machine Interface、MMI、Man-machine Interface とも言います)と SCADA のソフトウェアで知られています。 このグループでとくに目立つ動向は、HART プロトコル、Foundation Fieldbus の実用です。これらの現場通信バスを使った製品は、純DC 4~20 mA 信号を使った従来製品と外見が同じなので、よく注意して探してください。現場通信バスと Ethernet を使った PlantWeb によって、 DCS はますます分散化の方向にあるのが見えます。
 また、製品にマイクロプロセッサ(μP)を使って製品機能が複合化しているのも認められます。

2.買収、合併
 ISA EXPO 98 の見学には直接関係ありませんが、前回から数社が買収、合併になりました。計測制御業界が10年来経営的、財務的に不安定さを続けている現われです。会場内勢力図を見ながら、前回展示会以後変わった主な会社の説明をします。
 今年の最大ニュースは、ABBによるElsag Bailey Process Automationの買い取りでした。ISA EXPO 98の前週に発表になりました。同社は1年前から売りに出ていました。買収価格は15億ドル(約1,800億円)でした。一昨年にはElsag Bailey Process Automationが世界最大といわれていましたから、ABBの計測制御部門は当業界最大になりました。
 これで世界の計測制御産業は、ABB、F-Rグループ、Honeywellグループ、Siebeグループ、横河電機(アルファベット順)の5つの寡占状態になりました。5グループで計測制御製品の全世界売上げの約70%を占めています。
 Honeywell が山武ハネウエルの株式を売却して、山武が単独会社になったニュースは日本でお聞き及びのとおりです。前回までは電磁流量計など山武ハネウエル製品を Honeywell ブースに展示してありました。今回は、山武自身がブースを出しています。調節弁に焦点を集めた展示になっています。発散的な展示よりも分かりよいです。ここには、調節弁に取付けたフィールドバス式ポジショナにPID動作を入れて、液面制御を見せています。会場の全ブースを調べたわけではありませんが、フィールドバスで実動展示をしているのは山武だけのようです。フィールドバス時代になるとPID動作が検出変換器か操作端に入って、PID調節計の姿が薄くなるのを示唆しています。DCSはデータベースとHMIだけになるのではないでしょうか。
 Foxboro の親会社 Siebe が Eurotherm を買収しました。その前に、Eurotherm が Action Instruments を買っていたので、Foxboro グループは、Foxboro、Wonderware、記録計で知られた Eurotherm Chessell、Action Instruments 、Triconixの5ブースに出展しています。
 Fisher Control に次ぐ調節弁メーカーとして知られている Valtek は、 Flowserve-Valtek Divisionになっています。Flowserve では、ほかに Flowserve Automatic Divisionがブースを出しています。
 圧力計のメーカーとして有名だった AMETEK Inc. はしきりに会社買収をしています。その結果、AMETEK ブースには子会社9社が同居しています。      ■

ISA EXPO 98のあらまし
  • 場  所:Astrodome USA Complex、Houston、Texas、USA。ここは Astrohall と Astroarena の2会場よりなり、通路で接続してあります。
  • 日  時:1998年10月19日(月)より22日(木)まで
  • 出展者数:出展メーカー、出版社、業界団体をあわせて850。前回の ISA EXPO 96 会場では約700でした。アメリカの好景気、EXPO 開催が2年毎になったこと、この地方にユーザーが多いので、 Houston での計測制御展示会にはいつもメーカーが力を入れること、が出展者数を多くしたといえます。
  • 日本系出展者:14社(アルファベット順)。

ASAHI/America, Inc.、Canon USA、Chino Works America、Idec(和泉電気)、Futaba Corp. of America、Hokko Electronics Co.、Horiba Instruments Inc.、Kyocera Industrial Ceramics Corp.、M-System Co.、Meiji Corp. 、Shimadzu Scientific Instruments, Inc.、Toshiba International Corp.、Yamatake Corp. 、Yokogawa Industrial Automation。
《著者略歴》岡山大学理学部卒。 同大学より学位取得。 米国ペンシルバニア大学ワートン・スクール大学院より経営管理学修士 (MBA) を取得。 1954 年より 1967 年まで、 旧北辰電機製作所勤務。 退職時は技術総括担当 (部長)。 1967 年より 1994 年まで、 同社元技術提携先米国フィッシャ・アンド・ポータ社に勤務。 退職時は技術・営業・経営計画担当副社長。 この間に、 12 年間、 母校ワートン・スクール大学院で学外講師を勤める。 授業活動としてフォード・モータ社などの経営分析をする。 最近は、 年 1 回特別講義を担当。 1994 年、 米国内で MKK インターナショナルを設立、 経営 ・ 技術コンサルタントと執筆業を開始。
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