1999年2月号
ISA EXPO 98に見る計測制御の動向(2)
エム・システム技研 顧問/米国MKKインターナショナル 社長 
風早  正宏 
3.技 術 動 向

1.HART プロトコル
 HART プロトコルは、オープンになっているスマート信号です。スマート信号は、DC4~20mA 信号にデジタル信号を重畳した信号です。デジタル信号ではメーカー名、計器番号、計器名、測定値4個までの数値、自己診断結果などを伝送できます。
 HART 信号を使うと、HMI が必要とする情報を測定端と操作端に記憶して、システムの data integrity を高くできます。ループテストと遠隔機器のレンジ設定も容易にできます。自己診断情報と併用すると、計装のスタートアップと保守が容易になります。ユーザーと工事会社はこれらの機能を使ってコストを節減できます。HART 計器自身は従来の純 DC4~20mA 計器に比し多少コスト高ですが、スタートアップと保守の工数節減で十分に見返りがあると認められてきました。
 HART 機能を利用するには、計器を接続してある DCS や調節計が HART 機能を持っている必要があると考えている人が多いようですが、その必要はありません。ポータブルの HART コミュニケータを信号線につないでできます。したがって、古い計装でも変換器や調節端を HART 式に置き換える動向が欧米業界で底流として行われています。
 最近、ユーザーやエンジニアリング会社を歴訪して、私自身 HART 製品の広まりを見聞しました。2年前の調査以来大きく変わったと思いました。欧米市場で1998年内だけで800,000ノード分(1ノードは1製品を使うと仮定して可)販売されるという予測もあります。日本の計測制御分野では HART はもちろん、日本メーカー別(非公開)のスマート信号の採用でも遅れているように見受けますので、よく観察してください。
 HART プロトコルの説明とメーカー共同の製品展示は HART Communication Foundationが中心になっています。このブースがあります。
ここにはHART採用の製品を世界中から集めてあります。日本では各地で次々と日本Fisher-Rosemount社がDeltaVシステムの説明会を開いています。このとき、本家からHARTの説明を聞かれるように勧めます。
 Honeywell、Siemens を含み主要メーカーほとんどが HART 製品を製造していて各自のブースでも展示しています。ただ HART 製品と従来の製品の外函はほとんど同じなので、気を付けないと見落とします。Rosemount は、最近の差圧変換器では純 DC4~20mA 出力の製品は作らず、 HART 出力信号だけにしています。これらを DC4~20mA 入力の DCS や表示器と接続するときは、 HART 信号が持っている DC4~20mA 信号分だけを使います。
 DCS、調節計も主要メーカーの製品は HART 信号を受信、発信できるようになっています。TDC3000 DCS を作っている Honeywell は、変換器では HART 式を作っていても、DCS では HART 信号の受信をかたくなに拒否して、自社固有のスマート信号だけを扱うようにしています。いつまで拒否を続けるか、業界の噂スズメの話題の1つです。私見では、長年拒否し続けると Honeywell DCS は業界で孤立してしまうでしょう。
 ついでながら、私が2、3回見たときは、 Honeywellのブースは閑古鳥が飛ぶように空いていました。例年にはないことで奇異に思いました。

2.Foundation Fieldbus(以下 F-Fieldbus と略)等
 ISA、IEC(International Electromechanical Commission)がFieldbus の規格を整備しています。しかし、メーカー間の利害対立の犠牲になって国際規格になるには到っていません。この物理層の IEC/ISA 規格だけは5年前にできています。
 IEC/ISA規格委員会の規格策定作業の遅れに業を煮やした F-R、Siemens、Foxboro、横河電機などの大メーカーが 、Fieldbus Foundation(Fieldbus 協会)を1994年9月に作りました。Honeywell、ABB(Elsag Baileyを含む)も早くから参画しました。物理層では IEC/ISA 国際規格を採用し、外の部分では IEC/ISA 規格委員会に先駆けて協会の規格を作りました。これをFoundation Fieldbus(F-Fieldbus、日本では協会 Fieldbus)と呼びます。Fieldbus Foundationがブースを出して啓蒙活動をしています。
 2年前には Fieldbus Foundation が F-Fieldbus試作用プリント基板を希望会社に配布して、これらが試作器を ISA EXPO 96 に持ちよって、一斉展示をしました。そのときには、このような作為的な展示が F-Fieldbus の製品化を促進するかどうか危ぶむ意見がありました。正直なところ私もその1人でした。2年経ってメーカーやエンジニアリング会社を歴訪して、F-Fieldbus の実用が進んできたと感じました。
 Fieldbus Foundation の承認を得た変換器、バルブポジショナなどを F-R、SMAR Internatioal Corp、Foxboro が出展しています。
 F-R の DeltaV は F-Fieldbus の使用を標榜しています。Honeywell、Foxboro、横河電機の DCS も F-Fieldbus 信号を扱うと聞いていますが、私自身では確認はしていません。
 HART 信号をはじめスマート信号は、F-Fieldbus が実用になるまでの暫定的技術、あるいは橋渡しとする見方があります。最近の調査で、両者は長年共存すると私は思いました。有識者の意見も同様になってきています。新設プラントとプラント拡張では、F-Fieldbus が使われるでしょう。現存の10年、20年、30年と古いプラントで、計装のし直しをしないでデジタル信号の利点を生かすには、HART 測定端、操作端を使う方がコスト的に有効と考えます。
 F-Fieldbus に対抗すべく欧州に FA(Factory Automation)用と PA(Process Automation)用 Profibus があります。FA Profibus は実用に入っていると聞いています。この製品は Siemens ブースに展示されています。ドイツに Profibus 協会があり、前回まで ISA EXPO にブースを出していましたが、今年は来ていません。
 F-Fieldbus より簡単な計器バスで、FA や Building Automation を主な対象にした DeviceNet と LonWorks プロトコルがあります。 DeviceNetにはA-Bが力を入れていて、そのデータハイウェイのControlNetと一緒にControlNet Internationalのブースに出展しています。 LonWorks は母体 Echelon Corpがブースを開いて宣伝啓蒙に当たっています。
 このほかに歴史の長い Modbus もリモート入出力装置に広く採用されています。いろいろのブースで散見できます。
 Ethernet/TCP-IPがDCSのデータハイウェイに広く採用されています。Ethernetがdeterministicでないという反対意見が老婆心に過ぎないとばかりに広まっているのは周知です。最近100MB Ethernet/TCP-IPを通信ハイアラーキの最下部の計器バスレベル、とくにリモートI/Oと高速F-Fieldbus に使う動きがあります。この討論会がISA EXPO 98の2日目の夜に開かれ、私も参加しました。夜にもかかわらず、50人以上の出席者が4時間近く議論しました。    ■


戻 る

進 む

*. 本ウェブサイト上に掲載されている情報は、掲載した時点での情報です。記載内容はお断りなしに変更することがありますのでご了承ください。

*. 本ウェブサイト上の表示価格には消費税は含まれておりません。ご注文の際には消費税を別途頂戴いたします。

MG 株式会社エムジー

Copyright © 1992 MG Co., Ltd. All rights reserved.