1999年10月号

リモートI/Oスーパーフレックスシリーズ
(M9シリーズ)

(株)エム・システム技研 技師長
 
は じ め に
 フィールドネットワークとパソコンの普及は、今後の計装システムに少なからぬ変革をもたらすものと考えられます。以下に、エム・システム技研の新製品M9リモートI/Oをベースにしてその一考察を述べ、読者のご意見とご批判を仰ぐ次第です。

1. 産業用フィールドネットワーク
 産業用フィールドネットワークは、機能、性能、信頼性、コストなどの諸要求条件を満たして、いよいよ実用化の時代に入りました。ユーザーはこれを採用することによって、次のようなメリットを得ることができます。
 (1)検出端(たとえば測温抵抗体、差圧発信器など)や操作端(たとえば調節弁など)が設置されている現場(フィールド)と、それらの信号を受信したり、それらへの信号を発信したりする受発信計器(指示計、記録計、調節計、PLC、DCS、コンピュータなど)との間のアナログ信号伝送用ケーブルが不要になります。この伝送ケーブルは信号ごとに1対必要であるのに対して、フィールドネットワークは全体共通に1対で済むことを考えると、その経済効果や保守上の効果の大きさがわかります。
 (2)信号がフィールドネットワーク上をデジタルの形で時分割に伝送されるため、信号の種類や数を問いません。またそれらの信号を、それを必要とするすべての端末や計器に同時に伝達することができます。今までのアナログ信号伝送に比べて、次元の異なる可能性が開けてきます。たとえば、調節弁の保守情報をプラント運転と並行して管理用コンピュータに収録したり、温度検出端のキャリブレーションを行うことなどができます。

2. 産業用途へのパソコン(PC)の普及と定着
 一方、パソコン(PC)が、そのハード、ソフトの信頼性と性能の向上、価格の低減とを伴って、計装用の主要部品として完全に定着したことも言をまたないところです。近時、WindowsCEオペレーティングシステムが登場して、WindowsNT/98/95 PCとの完全な連携を維持しながら、ハードディスクという寿命部品をもたずに厳密なリアルタイム動作を行わせることが可能になりました。このことは、PLCやDCSなどの制御専用機器(コントローラ)が、PCを使うことによって、機能、性能面で同等であり、かつ価格面、融通性、人への親近感の面で有利に実現できることを意味します。

3. M9シリーズの狙いと構成
 1.項と2.項で明らかにした状況がもたらすであろう、21世紀における計装の変革に寄与する新世代I/Oとして、このたびエム・システム技研は新たにM9リモートI/Oを製品化しました。図1にその外観写真を、図2にそれに装着される信号変換モジュールの外観写真を、図3に測定信号の処理と通信を行う制御モジュールの外観写真を示します。
 (1)ベース(シャーシ)寸法は幅480mm(19インチラックマウント)、高さ100mm、奥行き110mmです。またベースの右端には電源モジュールが装着されています。
 信号変換モジュールの外形寸法は幅17.5mm、高さ48mm、奥行き75mmであり、非常に小形です。制御モジュールの外形は幅50mm、高さ100mm、奥行き103mmです。なお、ベースには16個の信号変換モジュールが装着できます。
 (2)信号変換モジュールとしては、熱電対入力用、直流入力用、測温抵抗体入力用、ポテンショメータ入力用、4~20mA電流出力用、接点入力用、接点出力用が準備されています。その他の信号変換モジュールも順次整備していく予定です。
 (3)信号変換モジュールにおける入力信号の絶縁と入力信号間(チャンネル間)の絶縁方式については、通常の信号変換器と同じ回路方式をとっており、小形にもかかわらず同等の能力を実現しています。
 (4)これらの入出力用信号変換モジュールは、16スロットの任意の位置に任意のものを装着して、任意に混在して使うことができます。
 (5)アナログ信号変換モジュールは、直流測定用高分解能AD変換器を搭載しています。このため、たとえばE熱電対測定では、その測定温度範囲である-270℃から1000℃をレンジ分割することなく一測定動作で0.1℃の精度(フルスケールの0.01%)保証で読取ることができます。
 (6)熱電対測定においては、冷接点温度補償計算と温度変換(リニアライズ)計算はシャーシ(ベース)右端の制御モジュールで実行されます。制御モジュールには、全熱電対の1℃刻みのJIS起電力表(温度テーブル)が内蔵されていて、非常に高精度なリニアライズ(温度変換)計算が実行されます。
 (7)したがって、熱電対入力モジュールは、熱電対の種類に依存せず、また前述のように測定温度範囲(レンジ)を細かく分割する必要がありません。制御モジュールに対して何番目の信号変換モジュールが熱電対用であるかということと、それに接続されている熱電対の種類(タイプ)が何であるかを教えておけばよいことになります。
 (8)制御モジュールに、⑦項に挙げたようなシステム構成情報を定義する(教える)ために、パソコン上で動作するM9コンフィグレータソフトが用意されています。これを使うには、パソコンと制御モジュールをRS-232-Cケーブルで接続して行います。図4にコンフィグレータ画面の例を示します。ユーザー仕様の温度テーブルを定義する機能も備えています。
 (9)測温抵抗体についても、熱電対の場合の⑥項、⑦項、⑧項に相当する機能が同様に存在します。
 (10) 信号変換モジュールのAD変換器でデジタル変換されたセンサ(検出端)信号は、そのまま制御モジュールに送られ、そこでマイクロコンピュータによって⑥項に挙げたようなデジタル処理が行われて、フィールドネットワークに送出されます。精度の劣化要素がないことに加えて、環境ノイズの影響の可能性が最低限に抑えられています。
 (11) 制御モジュールのフィールドネットワーク対応として、Modbus、 PROFIBUS-DP、Ethernetを揃えています。DeviceNet、CC-Link、F-F(Foundation Fieldbus)への対応もお客様の求めに応じて実施していきます。
 (12)とくにModbusに関してはFisher-Rosemount社のDeltaVシステムとの通信テストに合格したことによって、Modbus規格のもつあいまいさの不安を払拭しています。

4. Ethernetがもたらす可能性
 図5に示すように、従来および現行の計装機器構成は3階層になっているため、産業用ネットワークはフィールドレベルとコントロールレベルの2階層に分かれて、それぞれ異なるネットワークが使われてきました。しかるに、2.項で述べたように制御機器がPCに同化されるとすれば、機器構成が2階層になるのでネットワークは1階層で済むことになります。とくに中小規模計装においてこの傾向が顕著になると思われます。このような状況で注目されるネットワークがEthernetです。通信速度が10Mbpsと高速であることと、オフィス領域での普及実績からくる低コストと高信頼性が魅力です。100Mbpsのfast Ethernetの普及も始まっています。10数年来、Ethernetは通信時間が不確定的で計測制御に向かないという批判があったのにもかかわらず、Foxboro社のIAシステムやFischer&Porter社のDCIシステムを始め多くのDCSで使われ、実用性が確立しています。Foundation Fieldbus協会もfast Ethernetを取入れる作業を進めていて、9月には規格案が発表される見込です。この案では、function blockがH1 Fieldbusとfast Ethernet Fieldbusで共用するようになっています。Ethernetのフィールド(現場)への接近が感じられる事例はほかにも多数あります。
 このような状況を踏まえて、エム・システム技研がスミセック(住金制御エンジニアリング(株))殿、(株)コンテック殿と進めているEthernetを中核とする計装システム構成を図6に示します。現場に置かれたM9リモートI/Oは検出端の計測信号を読取りデジタル化してEthernetに乗せます。Ethernetに乗せられた計測信号は、現場のWindowsCEベースの制御用PCや監視用PCに届けられるとともに、距離の隔たった中央計器室や管理室のWindows98/NTベースのコンピュータにも同時に届けられます。制御用PCが決定した操作信号はEthernetに乗せられてM9リモートI/Oに届けられ、4~20mAなどのアナログ信号に変換されて操作端に印加されます。このように、① M9シリーズのようなフレキシブルなリモートI/O、② Ethernet注)、③ Windows98/NT/CEベースのPC、④ PC上での動作に定評があって信頼できる市販の監視、操作、制御(DCS機能、PLC機能)用ソフト、以上4つの構成要素でユーザーのアプリケーションシステムが完結することになります。このような構成の特色はオープン性とコンパクト性とであり、DCSにせよPLCにせよ工業計器メーカーの独自性が失われると同時に、価格の透明化と低減につながります。従来の重厚長大で、メーカーの個性が強くて、中身の隠蔽された計装システムは“20世紀の遺物”になるのではないでしょうか。

お わ り に
 この機会に、21世紀を迎えて新しい計装機器やシステムがどのような姿になっていくであろうか、どうあるべきかについて読者各位のご意見をお聞かせくだされば幸いです。そのご意見をエム・システム技研のこれからの製品開発指針にさせていただきます。
 あて先は下記にお願いします。
 kawashima@m-system.co.jp ■

注)Ethernetをこのような用途に適用する場合の短所とされている、「回線が混み合ったときには接続機器から見て、自分が実行したい通信が有限時間内に完了する保証がない」という問題への対処が不可欠ですが、エム・システム技研はL-Busプロトコルを開発してこの問題を解決しています。その概要は次のとおりです。(1)回線に接続されている機器間に順繰りにトークン(送信権)を回す。それを得た機器だけが必要に応じて回線にデータを送出し、終われば次にトークンを回す。(2)データの送出は同報通信(マルチキャスト)方式で行い、送出されたデータはすべての接続機器に同時に到達し、受取った各機器は自分がそれを必要としていれば取りこみ、不要なら捨てる。この方式はJOP:FAオープン推進協議会殿が実用化を進めている自律分散システムやFL-netでも採用されていて有効な方法です。
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