1999年11月号 | ||||||
エム・システム技研を材料にしたMBA授業の復習第10回 経営の評価指数 | ||||||
エム・システム技研顧問/米国・MKKインターナショナル社長 風早 正宏 | ||||||
企業内容の評価には一般に10数個の財務比率を使います(注1)。10数個の数字を見るのは面倒なので、学校の通信簿の平均点のように1つの数字で企業を評価する点数はないものかと考えました。本エッセイでは、企業破産予測に使う指数の適用範囲を広げてこの目的に使う方法を述べます。
アルトマンのZ指数 投資家や金融機関が企業の破産を予測したい要求に応じて、破産予測方法の研究があって、破産予測モデルは少なくも数種類開発されています。その中、ニューヨーク大学のアルトマン教授が1960年代に作ったモデルが使い易いので、アルトマンのZ指数(注2)の名で今も広く使われています。簡単にZ指数ともいいます。このモデルの計算式は下記のように簡単です。 (アルトマンのZ指数)=3.3 ×(EBIT)/(総資産) + 0.999 × (売上)/(総資産) + 0.6 ×(株式の総市場価格)/(総負債) + 1.2 ×(運転資本)/(総資産) + 1.4 ×(剰余金)/(総資産) ここでEBITは利子支払い前・税引き前利益。 モデルには、評価のために高参照値2.99と低参照値1.81との2つの参照値があって、計算したZ指数を比較して企業の状態を判断します。すなわち、 Z指数が、高参照値2.99より大きな企業は財務的に健全。 Z指数が、低参照値1.81より小さい企業は破産の可能性が大。 Z指数が、高参照値と低参照値との間にある企業は要注意。 このモデルは、企業破産を破産1年前に82%の確率で、2年前に58%の確率で、予測に成功したと報告されています。 アルトマンモデルは、最初米国で破産した小、中企業の財務データから統計学的に開発されました。その後、これが米国大企業にも拡大して適用されるようになりました。ただし、大企業の場合は破産になる前に買収、合併になって文字通りの破産にはまずなりません。 このモデルは米国企業のデータを基にしていますから、金融事情が違う日本で適用するには、日本のデータを使って計算式の係数と高低参照値を計算し直す必要があります。米国にはない慣行ですが、日本では同じ銀行が企業の株式を持ちかつこれに貸し付けをしていますし、会社間の株式の持ち合いがあります。このために、企業が長年破綻状態にあっても破産にはならない場合が多いです。しかし、破産予測はしないにしても、現モデルでも日本企業が破綻状態か要注意状態かの検出には使えるようです。 たとえば1998年3月末で、日産自動車のZ指数は1.15と極度に低かったです(注3)。他社に買収してもらうか、他社からの資本導入をしなければならない状態でした(注4)。 経営の評価指数 Z指数を低い範囲ばかりで使うのではなく、高い値も積極的な目的に使いたく思いました。 20年近く前、経営内容が良いと世間に認められていた大企業や中企業から年次報告書が手に入ったものについて、Z指数を計算してみました。さらに、これらの財務比率から経営内容の良さを評価してみました。この評価結果と計算値を比較して、Z指数は経営内容が良いほど大きな数字になり、経営内容の良さ悪さを1つの数字で示す指数に使えると観測しました。 それ以来、Z指数を「経営の評価指数(あるいは単に評価指数)」と呼ぶようにしました。内心では「社長の経営点数」と思っています。 アルトマン・モデル式の各項は経営内容が良くなると大きくなる数ですから、上の観測は当然とも言えます。しかし、5、6、7など高い値は理論的根拠が弱いので、高い数値は小数点以下を四捨五入して使っています。 最近(注5)の年次報告書から計算した経営の評価指数の一部を表1に紹介します。 表には、わたしなりに優、良、可、不可と付けました。評価指数がアルトマンモデルの要注意範囲のとき可、1.81以下を不可にしました。 製薬会社の多くが高い評価指数を持っています。これらの会社は、非常に利益率が高く、将来性を期待されて株価も高いです。 日本では、優良会社の中でも上位にあるトヨタ自動車、ソニーでさえ評価指数はアルトマンモデルの要注意範囲内でした。国内バブル経済の崩壊とアジア経済危機に巻き込まれた結果と考えます。 IBMは、12年、13年前まで、評価指数を計算する度に6とか8の高い値でした。最近のBusiness Weekの統計では利益金額が世界第3位のこの会社の評価指数が要注意の範囲内となったのには驚き、わたしの計算違いかと検算しなおしました。同社では利益率が高いメインフレームの売上が減りました。一方、パソコン(PC)では新興メーカーの後塵を被り大赤字を出しました。この間に総負債が非常に増え、剰余金が減っています。 経営動向観察への応用 1つの会社の経営内容が歴史的にどのように推移したかは10数個の財務比率の変化から観察はできますが、経営の評価指数を使うと1変数を観察するだけですみますから便利です。とくに、年度・評価指数グラフを作ると経営動向を一目で観察できます。応用の一つとして、勤務していたフィッシャ&ポータ社の1956年度から1963年度まで8年間の評価指数グラフを図1に示します。1956年には、評価指数は3.42でした。これが低下して1959年に最小値2.54(要注意)になり、その後回復しています。 1950年代に、われわれの業界では製品のエレクトロニック化がありました。以前の製品は機械式でした。この8年間は過渡期に当たります。以前からあった機械式製品の製造設備、試験設備の多くが遊休化する一方、新たにエレクトロニック製品を開発して、エレクトロニック製品の製造設備と試験設備をしなければなりませんでした。従業員の面では、機械エンジニアと工員を減らして、エレクトロニック陣容を作らねばなりませんでした。過渡期の財務内容が悪化した時期でした。社のエレクトロニック化が進んで評価指数が挽回に向かいました。図1のグラフはこの間の会社内容の変化を一目で分かるように示しています。 ■ 注1)例、307頁、井手正介、高橋文郎著「企業財務入門」、日本経済新聞社発行。 注2)Altman、“Corporate Financial Distress and Bankruptcy,”John Wiley & Sons, 1993 注3)1997年4月から1998年3月までの年度の年次報告書のデータより計算。 注4)結局、仏ルノー社から資本が入ったのは、ご承知のとおりです。 注5)トヨタ自動車と日産自動車以外は1998年度の報告書、両社は1998年3月時の年次報告書を使用。
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