1999年12月号

エム・システム技研を材料にした

MBA授業の復習

第11回 職務給制度

エム・システム技研顧問/米国・MKKインターナショナル社長 風早 正宏

 最近、日本で職務給制度を採用される会社が増えてきました。今回と次回にわたって、歴史が長い米国の職務給制度とその運営について述べます。
 この関係の本は多数出版されています。しかし、給料の実数を使った説明がないので実例で実態を説明します。
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年 俸 表
 米国の会社では、4年制大学卒業者あるいはそれ相当の経験者、すなわち専門職者と管理職者の給料は年俸です。工員やセクレタリなどは時間給です(上級管理者の個人セクレタリには年俸の人もいます)。表1は年俸表の一例です。この表より簡単ですが似た形に作られた時間給表があります。ドル値に100を掛けると、大体円相当になります。
 年俸表と時間給表が会社全体の給料を決めます。以下、年俸表を使って説明します。日本のような夏と年末の賞与はありませんから、表の数字が年収で、1/12が月毎に月給のように支払われるのが普通です。
 小企業は別として、米国の会社では職務に等級を付けています。これが表の最左列に見出しとなっています。8等級の職務の年俸の行を見ると、中心値は33,600ドルです。年俸は23,500ドルと45,400ドルの間です。中心値の上下に約30%分布しています。この間を日常管理の便宜のために5区分しています。近くの等級間で年俸が重複しています。
 この表は文字どおり例で、会社によって職務等級の数も区分の数も違います。わたしが長年勤めた会社では、この間に表を4区分にしたりまた5区分にしたりしました。
右端列に適用例を示しています。この例では、技術開発部のエレクトロニック技術者を初級技師(Junior Engineer)、技師(Engineer)、上級技師(Senior Engineer)、主任技師(Principal Engineer)、課長(Manager)、およびそれ以上の管理職と分けて、それぞれを8、10、12、14、16等級としています。営業部、製造部、品質管理部など他の部門にも8、10、12、14、16等級あるいはその間の等級の職務があります。 まったく異種の職務の多くが同じ等級になっています。 16等級以上は管理職ですが、管理職者の数は少ないので、等級と年俸は表にあっても該当者がないこともあります。
 新卒レベルの仕事に空席があれば、それを埋めるために大学に求人に行きます。表1の例では、新卒者の等級は8等級です。アイビーリーグ・スクールなど有名大学の学生は引く手あまたですから、第4区分の初任給を出さないと採用できないでしょう。就職率が低い大学卒業生ならば、第2区分、あるいは第1区分の給料でも採れます。

給料の頭打ち
 8等級第1区分で採用になった初級技師が、毎年まあまあの考課成績をとって毎年1区分ずつ昇給すると、4、5年で第5区分に入り8等級の最高年俸45,400ドルを取るようになります。
 この人がもっと高級の仕事ができるように努力をしないと、いつまでも8等級の仕事をし続けて給料はその最高値から上がりません。これが、日本にも伝わっているように、「同じ仕事ばかりしていては、給料が頭打ちになる」仕組です。

秘密の年俸表
 年俸表は、会社の労働力購入価額表です。企業は物と労働力を購入して製品を作り、業務の運営をします。物の購入価額は購買部門で安くする努力をします。労働力の購入価額を低く、しかも従業員を他社に失わないようにするのが人事課の重要な役目です。購入価額表ともいえる年俸表は会社の重要な秘密書類です。
 各社が秘密にしている年俸表をどのようにして作るか観察してみます。米国連邦政府は、1つの雇用者としては米国最大です。ここに連邦政府の年俸表と時間給表があります。これは政府データで入手可能です。民間企業は、まず政府に従業員を失わないように、それより高目に自社年俸表を作ります。
 電子製品製造会社や化学製品製造会社など、それぞれの業種別企業協会が、2、3年遅れにはなりますが、メンバー会社からのデータを集めて統計データを発表します。また、電子エンジニア学会、機械学会、化学工業学会など数多くある学会が、会員の給料調査をして1、2年毎に集計結果を発表します。人事課ではこれらのデータから、自社の年俸表の修正を検討します。
 約20年前までは、年俸表は従業員にも秘密でした。その後は、従業員自身がいる等級の年俸の上下限値と現年俸が第何区分にあるかは、各人に知らせる会社が多くなりました。これは、従業員に年俸の頭打ちまでにどれだけ開きがあるかないかを知らせるのが目的です。

職務記述書(Job Description)
 企業で、年俸表と切り離せない書類が職務記述書です。これは、職名(たとえば技術副社長Vice President-Engineering);職務等級;主要業務;主な職務と責任;必要な学歴と経験;を書いた1頁か2頁の書類です。
 職務記述書が社内にあるその総数は、従業員数近くあります。もっとも、初級エレクトロニック技師の職務記述書のように、多数に適用するものもあります。
 言うまでもなく、「主な職務と責任」を列挙した部分が職務記述書の主体です。上級の職になると、列挙の終わりに、「この職務は以上に列記した仕事に限定しない。」と書かれています。高級職者ほど列記された以外の仕事に時間をとられます。言い換えると、高級職種の職務ほど多岐にわたりかつ予測し難く、業務遂行がその職務にある人の自己判断と個人能力にゆだねられています。
 順序が逆になりましたが、「主要業務」とは、「主な職務と責任」を1、2行に要約したものです。たとえば、技術副社長職には、「競争会社に対して優位に立つべく、全社の技術(Technology)と製品開発に関する企業ポリシーと作戦を作り、実施し、維持する。」と書いてあります。
 「必要な学歴と経験」の項で、初級エレクトロニック技師の場合には、「4年制大学電子工学科卒業か、同等の経験者」と書いてあります。同等の経験者とは、短大出身者で長らく会社に勤めて実務経験から4年制学卒者と同等と認められる人などを指していて、これらに昇進の門戸を開いています。主任技師には、「大学院卒業者(修士)で、最低5年間上級技師を勤めた者あるいは同等の経験者」というようになっています。
 「職務等級」は、責任の大きさ、職務の難しさ、要求される学歴と経験により決まります。また、自由労働市場を反映して、同一の職務記述でも、その職に見合った人が得難いときは、需要と供給の関係で通常より高い等級になります。

職務記述書原案の作成
 部課内で空席ができたときは現存の職務記述書を使いますが、新しい技能の人が必要になって求人するときは、その直接上司が原案を書きます。技師の職務記述書は主任技師か課長が、課長のは部長が、部長のは副社長がといった具合です。
 等級は、等級委員会で全社的観点から決定されます。
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 本エッセイで年俸表と職務記述書の紹介をしました。次回は、これらの実用として、人事採用と考課成績と昇給について説明します。  ■

◆ 著者からのおことわり ◆
今回のエッセイでは、エム・システム技研を材料にしてありません。 
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