2000年1月号

エム・システム技研を材料にした
MBA授業の復習
第12回(最終回) 職務給制度(続)

エム・システム技研顧問/米国・MKKインターナショナル社長 風早 正宏
 
はじめに
 前回に続いて、今回は、米国での人事採用と考課成績と昇給について述べ、職務給制度の運営を説明します。

1.求人と採用
 課内に空席ができたり課の拡張に人員が必要になると、課長が求人を人事課に出します。求人を出すとき、課長はどの職務記述書の該当者が必要かを述べます。以下、技術課長が職務等級10の技師を採用する場合を例にします。
 人事課は、まず求人を社内公示します。社内に希望者がないときには、新聞、業界誌、学会誌に求人広告を出します。就職周旋業者に依頼する場合もあります。社内公示と求人広告を作るときに、応募者が働くことになる部課名と職務記述書に書いてある職名、主要業務、必要な学歴と経験を転記します。就職斡旋業者に頼むときは、職務記述書と年俸表から、このポジションの主な職務と責任と10等級の年俸幅も知らせます。
 応募者から採用が決まって、新課員が出社すると、確認のために職務記述書を説明します。このとき、写 しを手渡すか読み上げるだけかは会社によって違うようです。
 大部分の新規採用者は3か月間仮採用です。3か月目の終わりに、課長は新人が課になじんで仕事ができてきているかどうかを話すようにするのが一般 です。6か月目にまた、非公式に課長が6か月間の仕事ぶりの評価を述べて、助言をしたりします。採用日から1年以後は毎年、考課成績(Performance Review)を付けます。従業員は日本と違って一斉採用はなく、いろいろの月日に採用されています。したがって採用月日から決まる考課成績の採点日も昇給日も、従業員一人一人で違います。成績の善し悪しでも昇給日が変動します。
2.考課成績

 会社には管理職向け、管理職でない専門職者向け、時間給者向けの考課成績を付ける手引き書があります。これに従って管理者は部下一人一人の考課をし、成績書を書きます。
 管理職の考課成績書は4頁ぐらい、専門職者で約3頁、時間給者で2頁程度です。1年間の成果 を記録して一つ一つに評点を付け、それをもとに総評を書き総合点を付けます。次の1年間にはどのような専門知識を身に付けて、対人関係をどのように改善してほしいかといったような、管理者の意見と助言も書きます。
 考課成績書の総合点は、1点から5点のスケールで付けるのが一般的です。会社によっては1点から10点を使っています。
 課長は総合点をもとに、無昇給も含めて昇給額を決めます。
 管理者は、この成績書を当人に見せて1対1で話し合いをします。昇給額と新年俸(あるいは新時間給)も伝達します。課員にとっては生活が掛かっている話し合いですから、課長が反論、突き上げに会うのは常です。このときは、管理者にも当人にも非常に厳しい時間です。
 課長は、このように課員の採用、したがって解雇の人事権と給料決定の権限を持っています。おおげさな表現ですが、部下の生殺の権限を持っています。この権限には、公正に考課成績書を作りその内容を部下に承知させる義務が伴っています。
 管理者に強い権限を乱用する者も出てきます。この防止に、管理者の査定と決定は、部下に伝える前に、直接上司がチェックするようにしています。課長による査定と決定は部長が、部長のは副社長が、副社長のは社長が見るという具合です。

3.考課成績と昇給

 昇給(salary increase)には是正の昇給分と考課成績による昇給分(increase by the merit)とがあります。
 前回のエッセイから一部を写した表1の年俸表は、物価上昇と失業率の変化などで古くなりますから、1年か2年毎に改訂になります。インフレの影響で、わたしが勤めた約30年間、1年、2年毎に表の金額が上昇しました。この是正がありますから、給料が頭打ちになっている人でもわずかながら昇給します。
 表2に昇給のガイドラインの一例を示します。これは、人事課から管理職者に配布されます。左列に考課総合成績を見出しにしてあります。1点から5点のスケールで、秀優良可はわたしが対応付けました。区分は表1の区分に対応します。表2は職務等級に関係なく、成績と区分を見て使います。
 10等級の技師が40,000ドルの年俸をとっていたとします。総合考課成績が3だったとします。表1から、この年俸は第3区分にあります。表2から、5%まで、すなわち2,000ドルまで昇給させてよい計算になります。課長は、総合成績が3とはいえ、2に傾いた3だから、2,000ドルではなく1,600ドル昇給をさせるといったように判断します。

4.再び考課成績の付け方

 表2で成績が2(可)のときは、昇給はゼロです。考課成績を付けるに当たり、職務記述書に書いてある職務を普通 にこなすのは当然と考えています。当然のことをしている人の成績が2です。等級10の技術者には、年俸表で等級10相当の年俸は払っているから、当然のことをしている技術者には昇給はしなくてもよいという考えです。
 年俸表の是正をする年には、成績2にも1~3%の昇給があります。
 総合成績1の人は、職務記述書の内容に満たない仕事しかしていないので、無昇給は当然です。無昇給は、米国では一生懸命成績を上げないとそのうちに解雇になりかねない、というメッセージに理解されています。2年間無昇給になると、大抵他社の適当な仕事を探して退職して行きます。

5.昇格と転職
 1つの職務で成績を上げると、表1の1つの行に沿って昇給するが頭打ちになる説明を前回しました。自分の収入を上げるためには、等級が高い職務に昇格しなければなりません。意欲的な人は職務内容と責任が現在より高い仕事を引受けて、その機会を作るように心掛けます。
 さらに、市町の高校や短期大学が提供する成人学校に行って、特殊技能を習得する人もあります。米国、とくに都市周辺には夜間大学が数多くあります。高卒者が夜間大学に出席したり、学卒者が夜間大学院に行ったりします。企業も夜間大学に行くように援助します。
 このように高級職へ上がる努力をしても、不幸にも社内で上級職に空席がでないと昇格の機会がありません。その場合は、他社のポジションを求めて転職するか、辛抱して機会を待つかせざるを得ません。

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 2回に分けたエッセイで米国の職務給制度の体系と運営について説明しました。
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 今回で、12回にわたる経営学エッセイの連載を終わらせていただきます。毎回発送前に原稿を検読してくれた家内と、念入りに校正編集をしてくださった広報室関係者にお世話になりました。
 ご愛読ありがとうございました。               ■

◆ 著者からのおことわり ◆
今回のエッセイでは、エム・システム技研を材料にしてありません。 

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