2000年8月号

超高速PIDコントローラ
(形式:M2FC)

㈱エム・システム技研 技師長/開発部
 
は じ め に
 エム・システム技研は、主力製品であるコンパクト信号変換器「みにまる」シリーズの中に、PCスペック形信号変換器としてM2Xシリーズを準備、提供しています。このシリーズは、最近市場で主流になりつつある「PCプログラマブル信号変換器」と総称されるカテゴリに属します。そして現在、表1に示す機種をラインアップしています。
 これらの機種は、内部にマイクロコンピュータと高精度のAD/DA変換用LSIを備えていて、ファームウェアによるデジタル演算で信号変換を実行します。その結果、次に挙げる利点があり、多くのお客様からご好評をいただいています。
 ① リニアライズを含めた信号変換精度が極めて高い。
 ② パソコン上のコンフィグレータソフト:JXCONを使って、入力レンジをはじめとする諸パラメータを任意に設定できる。
 ③ M2XTの場合には、JXCONを用いて熱電対のタイプ(種類)指定を行うことで、相当する熱電対用の信号変換器として動作する。すなわち、全熱電対に対してハードウェアは共通に1機種で済む。
 ④ M2XRの場合も、全測温抵抗体について同様のことが言える。
 ⑤ 同じくJXCONを用いて、必要なときに設定変更や信号値のモニタ、模擬信号値の注入などができる。

1.PIDコントローラに対するお客様の要求
 信号変換器は、人の目に触れない運転パネル裏の計装ラックや無人の現場盤などに装着されて、5年、10年と高い信頼性と耐久性をもって黙々と働き続ける地味な存在です。一方PIDコントローラという言葉からは、運転パネル表面に装着され、表示器と操作ボタンで構成された高機能な「顔」を持つ、いわゆるシングルループコントローラ(SLPC)を想定しがちです。しかしPIDコントローラとして、次のような市場要求が多いことも見逃せません。
 ① 一旦制御目標値(SV)が設定され、P・I・Dのパラメータがチューニングされたら、それをもって10年1日のように黙々と、しかし高い信頼性と耐久性をもって忠実にレギュレーション(定値制御)を遂行すればよい。
 ② したがって「顔」は不要で、必要なときパソコンとつないでコンフィグレータソフトによって設定変更、チューニング、モニタなどができればよい。したがって運転パネル表面に取付ける必要はなく、計装ラック取付けで済ませたい。取付け占有面積もできるだけ少なく済ませたい。
 ③ 市場の高機能なSLPCは、各種ファンクションブロックをマイコン上の大量のファームウェアとして搭載し実行しているために、制御周期の短縮に限界があり、高速現象の制御に適用できない。基本的な機能、限定された機能でよいから、たとえば10ms程度の制御周期や1ms程度の監視周期が欲しい。往時のアナログ調節計と同等の使用感、制御特性が欲しい。
 ④ 他方、制御を実行させるため危険分散はぜひ図りたい。したがって、1台1制御ループ担当としても負担にならない、低価格とコンパクトさが欲しい。
 このように見てくると、PIDコントローラに対するお客様の要求は、エム・システム技研の主力製品である信号変換器の特徴ときわめて高い類似性を持つことがわかります。ことに、はじめに述べたように、マイコン搭載形信号変換器の時代である今日においては、両者に基本的な相違は全くないと言えます。このような市場と技術分析に基づいて製品化したのが、超高速PIDコントローラ:M2FCです。
 図1の右端がM2FCで、左がM2XTなど既存機種です。ご覧のように、混在使用しても違和感がありません。

2.M2FCの機能
 表2にM2FCの主な仕様を示します。M2FCは、最新の高速/高精度ADC、DACとフラッシュROM、RAMを内蔵したMPUを採用して、PID制御周期最短10msを実現しています。図2に機能ブロック図を示します。高速サンプリングに対応するために、PV入力に対して2段のソフトフィルタが設けられており、そのフィルタ定数をチューニングすることができます。積分制御については、理想的なアンチリセットワインドアップ方策が施されています。また微分制御については、出力限界を超える微分量が発生した場合も、それを効果的に利用する方策が施されていることと、不完全化係数を任意にチューニング設定できることとがあいまって理想的な動作が得られています。P・I・Dのパラメータ設定によってP、PI、PID、PD制御モードが得られます。PDモードでは、MV値のマニュアル・リセット値が設定できます。

3.M2FCのコンフィグレータ、モニタ、セルフチューニング
 M2FCには、Windows パソコン上で動作するM2FC Visual Control (形式:JXCON1)が準備されています。パソコンとは、専用のステレオミニジャックがついたRS-232-Cケーブルで接続します。オンラインで随時着脱可能です。これを用いて、制御ループのコンフィグレーション、パラメータのオンライン表示/設定、PV/MV/SVのバーグラフ表示とトレンドモニタ表示ができます。トレンド画面のハードコピーも、Windowsの機能を用いて実行できます。また、これらの機能に加えて、オンラインでのプロセス同定とセルフチューニング機能の開発を進めています。なおM2FCのようなスリムな製品では、自機の中にこれらの機能を内蔵するよりも、必要なときにパソコンを接続して、その能力を利用して目的を達成する方がスマートであると考えています。

4.M2FCの今後の取組み
 ① 図2に示すように通信手段としてCAN(Controller Area Network)バスを搭載しています。CANは車に搭載されて、車の厳しい環境条件の中でエンジンやトランスミッションやアンチロックブレーキなどの自律分散形で高速なリアルタイム制御を実行するためのLANとして確立し、産業用にも普及しつつある通信方式です。高速、高信頼性、コンパクト、低価格に特徴があります。これを用いることによって、次のような展開を計画しています。
 ●複数のM2FC間をCANバスでマルチドロップ接続し、各々が自己の制御モードやPV値、MV値をバス上に送出することによって、自分が必要とする特定の相手の情報を取り込むことができる。こうすることによって、カスケード制御や比率制御などに必要なループ間結合が可能になる。
 ●上記接続にPCを加えることによって、机上のPC画面で集中監視、操作が可能になる。また、PCは複数台でも構わない。
 ● SLPCの「顔」に相当する部分だけを作って、これを運転パネル表面に取付け、パネル内部のラックあるいは現場盤に取付けられているM2FCとCANで接続する。こうすることによって、「顔」と「M2FC:超高速PIDコントローラ本体」が分離した分離形コントローラが構成できる。「顔」は、パネルで監視操作したいループ数分だけ設ければよい。「顔」は10mm程度の薄さにできると思われるので、取付けに際して大きなパネルカットをする必要がない。また、新設、追加、移動が容易である。
 ② 上記の説明では、M2FCをPIDコントロール機能を組み込んだ固定機能的な製品として紹介しました。しかし、今後の取組みとしては、お客様が自分で自分の描きたい画を描くことができるスケッチブックのような存在に育てたいと考えています。お客様の製造プラントや工場フロアの中には、制御や監視に関する固有の改善要求がしばしばあるものと思われます。これらの多くは「そう大規模なものではないけれど、現場で得られた知恵を組み込んで試行錯誤して最適点を見つける」というようなものです。したがって、そのために高価な機材を購入したり作業を委託したりすることはできません。M2FCは、定価が8万円と低価格であるうえ、パソコン上でのプログラミングやシミュレーションデバッグ、完成したソフトのパソコンからM2FCへのダウンロード、M2FC実行時のパソコンからの監視などが非常に簡便に行えます。したがって、上記のようなお客様の改善実行時に役立つ最適な素材と言えます。
 エム・システム技研は、このM2FCをはじめとする豊富に取り揃えた“手のひらに載る”サイズのコンパクトで低価格な計装機器群によって、お客様の、小さくて地味ではあるが積み重ねると大きな効果につながる改善のお手伝いをして行きたいと考えています。具体的なテーマがあれば、エム・システム技研の担当営業マンまたはホットライン窓口にお申し付けください。

お わ り に
 以上、M2FCの製品紹介とその出生の時代背景を考察しました。この分析に従えば、今や旧来の「数十万円という高価格のSLPC」のかなりの部分が、「1桁下の価格の、信号変換器クラスのハードウェアとその上の制御用ファームウェア」に置き換わる時代が来ていることになります。これはちょうど旧来の「重厚長大なDCS」が、今や「パソコンとリモートI/Oとそれらを接続するフィールドネットワークなどのオープンな素材で構成され、軽量で低価格なDCS」に一斉に置き換わりつつあるのと軌を一にしています。これはまた時代のなせる、したがって避けて通ることのできない業界秩序の破壊と再生期の現象の典型例であると見ることもできます。我々を取り巻く計装市場の構造は確実に変革しています。そして、それは必ずやお客様に有利な変革であるに違いありません。エム・システム技研は、この変革を全社をあげて推進します。 ■

みにまるはエム・システム技研の登録商標です。
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