2002年3月号 | ||||||||||
流 量 の お 話
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(有)計装プラザ 代表取締役 佐 鳥 聡 夫 | ||||||||||
「風の動きが分かるくらい出口に近ければ、何も汚い指を舐めなくても方向くらい分かるだろう」と異論がでそうですが、今回取り上げる流量計は、本質的にはこの話と同じ理屈で動いています。 この連載の第6回で取り上げたコリオリ式流量計は、液体やスラリーの質量流量が直接測れることが最大の特長でしたが、気体は限られた条件の下でしか測れませんでした。今回解説する熱式流量計はその逆で、気体の質量流量が直接測れます。その代わり、液体への適用は微少流量に限られています。 熱式流量計はサーマルフローメータ、またはサーマル式流量計とも呼ばれます。
金属細管にヒータを巻きつけ、その両側に温度センサを配置すると、流体が流れていないときはヒータの熱が両側に均等に伝わり、両方のセンサの出力はバランスしています。流体が流れると上流側センサは冷えて出力が下がり、下流側は逆に上がって、出力バランスが崩れます。この崩れる度合いが流体の質量流量に比例しているのです。 細管の内径は0.5mm程度なので流せる流量は極めて少なく、図2に示すように、流れを流量計の内部で主流とバイパス流に分け、バイパス流量を測って全体の流量を推定する方式が一般的です。 主流が流れるメイン配管の内部にあるフローエレメントは、金属細管を束ねたものや金属板に細かい孔を多数開けたもの、あるいは焼結金属が用いられ、流れに適当な抵抗を与えることによってバイパス流に対する比率を決めています。主流とバイパス流は常に一定の比率で増減しますから、バイパス流量を測れば全体の流量が分かることになります。 小型の熱式流量計をコントローラおよび制御弁と一体化し、それ自体で流量を一定の値に制御する、マスフロー・コントローラと呼ばれる製品も普及しています。 熱式流量計の測定対象はほとんど気体ですが、中には液体の微少流量を測る製品もあります。
1)質量流量が直接測れる 液体と異なり、気体は温度・圧力の影響で体積が大幅に変わります。したがって、体積流量で測っても、0℃、1気圧の標準状態に換算した値、NL/minやNm3/hで表示します。これは質量流量表示と実質的には同じです。そのため、体積流量計、温度発信器、圧力発信器、さらに補正演算器から成るシステムを必要とします。 ところが、熱式流量計はそれ自体が直接質量流量信号を出力するのですから、これほどありがたいことはありません。 2)可動部がない 回転軸のように動く部品がないため、一旦うまく動き出せば後の面倒はありません。メンテナンスが不要です。 3)微少流量まで測定可能 気体で3NmL/min、液体で0.7mL/minという極めて微少な流量まで測定可能です。 4)流量ゼロ付近まで信号が出る 温度センサは風の動きに敏感で、流速がゼロ付近になっても出力信号を出し続けます。ある流速でパッと信号が消えることはありません。逆に過大流量で壊れる部品もなく、1つの流量計で広い流量範囲をカバーできます。 5)高温・低温で使える +550℃の高温から-200℃の低温まで使えます。ただし、1台の流量計で高低温すべてをカバーするのではなく、流体の温度範囲が定められています。カタログで検討する際、注意してください。 物にはすべて良い面と悪い面があります。弱点のない流量計などありません。熱式流量計について注意すべき点を以下に挙げます。 1)測定対象の制約 クリーンな気体専用です。蒸気も液体もスラリーも測れません。ただし、微少液体流量を測定対象とする製品があり、これは電気信号を必要とする用途に好適です。 2)汚れに弱い 前項で「クリーンな」と断ったのは、熱式が汚れに弱いからです。塵や埃で細管が詰まれば当然測れなくなります。流量計入口の金網をフィルタと思う方が多いのですが、これは実は整流器で、塵埃を防ぐ効果はありません。もし、効果があるほど目の細かいフィルタを入れれば、すぐに詰まってしまうでしょう。細管を使わないタイプでも、ヒータやセンサの表面が汚れると誤差が増えます。したがって、湿ったガスやオイルミストのあるラインは避けてください。 3)流体ごとに特性が変わる 熱式流量計の流量対出力信号の関係は、図3に示すように流体ごとに異なります。熱を運び去る能力が流体によって違うからです。 したがって、窒素ガス用に購入した流量計を、そのまま水素ガス用に使うことはできません。実流校正は本来ならば実ガスで行うべきですが、これは大変なので、空気または窒素ガスで校正し、あらかじめ実験で求めた換算係数を適用するのが一般的です。 4)直管部が必要な場合もある 図2に示した構造の製品は直管部を必要としませんが、大きい口径の配管に棒状のセンサを挿入する構造をとる製品もあり、この場合は原理的に流速を測定することになるため、上下流にある程度の直管部を必要とします。詳細は、参考書(たとえば松山 裕 著「実用 流量測定」省エネルギーセンター1995年刊)をご覧ください。
一方、ごみ焼却場の排煙ガス流量測定にも、高温に強い熱式流量計が使われています。排煙の中の細かい埃で、センサの表面が次第に汚れて来ますが、間歇的に空気を吹き付ける装置を取り付け、問題を解決しました。このように、計装の工夫で弱点を補うこともできるのです。 ■ |
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