1999年7月号 | |
計装豆知識熱電対と熱電対信号変換器(2) |
前回は、熱電対を使った温度計測に際し、冷接点温度補償が必要になる理由を述べました。今回は、この補償の原理と具体的な補償方法、ならびにこの補償機能を装備した変換器の検定方法について説明します。 (1)冷接点温度補償の原理と方法 図1は前回も示したものです。この図において、測温接点の温度(求めたい温度)がTx℃、基準接点(冷接点ともいう)の温度がTc℃のとき、この熱電対が発生する起電力がExcであるとします。また、測温接点温度がTx℃、基準接点温度が0℃のとき、この熱電対が発生する起電力がExであり、測温接点温度がTc℃、基準接点温度が0℃のとき、この熱電対が発生する起電力がEcであるとします。このとき、ゼーベック効果の原理により、Ex=Exc+Ecの関係が存在します。Excは信号変換器に直接印加される入力値(冷接点補償を施さない値)であり、もしEcを求めることができれば、Ex=Exc+Ecの関係によってExが決まり、熱起電力表から目的のTxが求まるわけです。 そこで、Ecを求めるために、まず基準接点の温度Tcを求めます。熱電対信号変換器ではTcを求めるために、測温抵抗体素子など温度によってその抵抗値が変化し、かつその関係が既知である素子を用います。具体的には、この測温抵抗体素子を変換器の冷接点補償端子に接続し、変換器内部で発生させた定電流をこの端子間に流して、発生する電圧から抵抗値Rcを測定します。このRcとTcの関係は既知ですから、Rcを使って温度Tcを求め、Tcから熱起電力表を介してEcを求めることができます。 この手順を整理すると次のようになります。 ①Excを求める、②Tcを求める、③熱起電力表を用いてTcからEcを求める、④Ex=Exc+Ecを計算する、⑤熱起電力表を用いてExからTxを求める。 なお、熱起電力表からExcに対応する温度Txcを求めた場合、Tx=Txc+Tcの関係は成立しないことに注意する必要があります。その理由は、前回述べたように、熱電対の起電力と温度の関係がリニア(直線関係)でないことにあります。 (2)熱電対信号変換器の検定方法 現場で使用している熱電対信号変換器について、変換機能の検定を行いたい場合があります。そのとき、基準電圧発生器からの試験電圧Eを変換器に印加し、変換器の出力をデジタルボルトメータで読取ることになりますが、冷接点補償機能の存在について注意する必要があります。すなわち(1)で述べたように、試験用電圧Eを印加しても、変換器の冷接点補償機能の働きによって変換器内部ではE+Ecが印加されたことになり、これに対応する出力信号を発生するからです。したがって、入力電圧Eをそのまま出力させるには、等価的に冷接点補償機能が働かないようにする必要があります。 この点を考慮した具体的な検定方法を図2に示します。 熱電対を構成する2つの金属線の各線片と銅導線とを接続し、接続点を氷点槽に入れた状態で銅導線を電圧発生器に接続し、試験電圧を印加します。各線片は銅導線を介して接続され、測温接点を構成する形になっています。測温接点は0℃に保たれ、基準温度接点は変換器の入力信号端子に接続された形になっていますから、端子温度をこの熱電対で測定した場合の起電力Ecの逆電圧、-Ecが変換器の入力端子間に発生します。したがって、試験電圧としてEを発生させると入力端子間にはE-Ecが印加されることになります。一方、変換器内部では、冷接点補償回路によってEcが発生し、入力のE-Ecに加えられて、E-Ec+Ec=Eになり、変換器はEに対応する出力を発生するため、変換動作の正否を判定することが可能になります。 ■ |
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