1998年8月号

サージアブソーバを用いた 雷害防止技術

東京都立産業技術研究所 技術企画部 技術評価室 高電圧機器担当 滝田 和宣
 
は じ め に
 半導体の急速な発展とデジタル技術の進歩により、産業用機器、通信用機器および家電製品などに、小形で多機能な製品が実現されてきました。その反面、デジタル化されたこれらの電子機器は、電気的なノイズに弱く、これが誤動作や故障の原因の一つになっています。様々なノイズの中でも、大きなエネルギーを持つ雷サージやモータおよびリレーを開閉したときの開閉サージなどから電子機器の誤動作や破壊を防止する技術は大変重要で、こうした現象に対処するため、現在各種のサージアブソーバが開発されています。
 ここでは、サージアブソーバを使用した雷害防止技術について解説します。

1.サージ電圧の発生
 雷には熱雷、界雷、地形雷などがあります。熱雷とは、夏の日射が強いとき地表付近の湿った空気が暖められて、大きな上昇気流を生じ、雷雲になったものです。また上昇した大気が熱放射により冷却すると、下降気流を生じます。このとき上昇気流と下降気流の間での摩擦により帯電し、大気や大地に放電するのが落雷です。界雷とは不連続線の付近に生じる雷です。雷雲は、夏場は太平洋側に多く発生し、冬場は日本海側、とくに北陸地方に多く現れます。
 雷サージは雷放電が起きたときに電子機器の電源線や制御線、信号線などに発生する異常高電圧で、パワーが大きいために電子機器にとってはもっとも恐ろしい存在です。雷放電が起きると、架空配電線には、帯電した雷雲から直接落雷する直撃雷サージ、静電誘導により配電線に反対極性の電荷が誘導される誘導雷サージおよび柱上変圧器の第2種接地線から侵入するサージなどが発生します。
 開閉サージとしては、電力系統の地絡事故などの故障時や高圧系統の断路器操作時などに発生するものとコンデンサやインダクタンスなどの誘導負荷をスイッチやリレーなどの接点で開閉したときに発生するものとがあります。有接点の開閉サージの波高値は、誘導負荷を開路したときに約2000Vに達することもあります。

2.雷害防止機器の種類
 雷害防止機器の代表的なものはサージアブソーバです。また、絶縁変圧器に耐雷性能を持たせた耐雷変圧器やシールド方法を改善してノイズ遮断性能を向上させたノイズ遮断変圧器なども使用されています。
 サージアブソーバとしては、サージ電圧が侵入してきたときにのみ動作してサージ電圧を吸収、制限し、できるだけ回路に影響を与えないことが必要です。サージアブソーバには大きく分けてギャップ式と半導体式があります。図1にサージアブソーバの具体例を示します。
 ギャップ式サージアブソーバの構造は、ガラスやセラミックスの気密容器の中に放電電極を対向させ、その間に空気または不活性ガス(たとえば窒素N2)を充填しています。通常は開放状態ですが、サージ電圧が印加されると電極間にアーク放電が発生し、短絡状態になり、サージ電圧を制限します。構造が簡単なため信頼性が高く、繰り返した放電に対しても安定しており、サージ耐量も大きいという長所があります。また、電極間の静電容量が数pFと小さいため、高周波回路での損失が少なくてすむという特長もあります。しかし、放電現象を利用しているため、サージ電圧が印加されても放電までわずかながら時間を要する火花放電遅れや、電源の入力側のように常時電圧がかかっているところに使用した場合、サージが消滅しても電源電圧によって放電が継続する続流という現象が問題点としてあります。図2(a)に火花放電遅れの様子を示します。
 半導体式サージアブソーバには、金属酸化物バリスタとシリコンサージアブソーバがあります。バリスタとは電圧依存性抵抗素子のことをいい、電圧が小さいときは高抵抗を示しますが、ある規定以上の電圧(たとえばバリスタ電圧以上)を加えると導通状態になり、大電流が流れるようになる素子です。金属酸化物バリスタの中で、現在もっとも多く使用されているのは酸化亜鉛バリスタで、酸化亜鉛(ZnO)に数種類の金属酸化物を添加し、燒結したセラミック素子です。これにはギャップ式サージアブソーバのような続流の発生はなく、また、応答速度が速いため、火花放電遅れといった問題も少なくなっています。図2(b)に応答時間の様子を示します。しかし、サージ耐量を大幅に上回るサージが回路に侵入した場合、焼損または短絡する恐れがあります。
 シリコンサージアブソーバは、ダイオードの降伏現象を利用したサージアブソーバです。立ち上がりが急峻なサージ電圧を吸収する目的で開発されたため、応答速度は非常に速く、漏れ電流は小さく、制限電圧は低いなどの特長があります。しかし、サージ耐量はほかのサージアブソーバより小さいため、ギャップ式または半導体式サージアブソーバと併用することが望まれます。

3.サージアブソーバの使用法
 サージアブソーバを使用する場合、ただ単に回路に挿入すればよいという考えではサージを回避することは難しく、次のような対策が必要です。
(1)入出力回路を同電位化する。
 サージアブソーバの接地端子と機器の接地線および機器のケースを接続することにより、サージが侵入して接地点の電位が上昇したとしても、機器の接地端子と入出力回路の電位差はサージアブソーバの制限電圧になります。
(2)対策を多重化する。
 半導体を用いた機器はとくにサージに弱く、サージアブソーバが吸収した後のエネルギーでも支障をきたす場合があります。そのため、一般に多段階にサージアブソーバを設置する必要があります。
 具体的には、電源線に侵入して来る雷サージに対しては、線間および線-大地間の両方に接続するのが効果的です。また、誘導負荷を開閉したときの開閉サージに対しては負荷の両端に接続し、スイッチ等の接点を保護するには接点間に接続するなどの対策が効果的です。さらに、各種サージアブソーバと耐雷変圧器やノイズ遮断変圧器を併用することにより、各々の特徴を発揮させることが有効な対策となるでしょう。また、電源線と通信線にサージアブソーバを設置し、そのアースを共通にして電源線と通信線の電位上昇を減少させる機能を持たせたOA機器用タップなども開発されています。

お わ り に
 現在、市場に出回っている種々のサージアブソーバには一長一短があり、個々の素子の特長を十分に理解しておく必要があります。その上で、侵入してくるサージの種類、保護したい機器や回路、用いられている素子などのサージに対する特性を考慮し、保護に適したサージアブソーバを選択することが必要です。   ■

◆ エム・システム技研避雷器開発担当者から一言 ◆
 エム・システム技研では、お客様が選びやすいように、信号の種類や大きさに対して最適なサージアブソーバを組合せ、各種電子機器専用避雷器をご用意しています。

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