1998年12月号 | ||||||
エム・システム技研を材料にしたMBA授業の復習第2回 製品の生産中止 | ||||||
エム・システム技研顧問/米国・MKKインターナショナル社長 風早 正宏 | ||||||
「古い製品の生産中止は標準化には欠かせない。」と多くの人が思い込んでいます。標準化は製品コストの低減で顧客へ奉仕するとして、世界中の製造会社で実行されています。本エッセイでは、工業用設備製品でこれらが顧客への奉仕なのか、製造者が自分の都合を顧客に押し付けているのか、どちらかを考えてみます。 MBAや工学部の講座でも、生産中止の効果やその管理方法の講義があります。私が勤務したフィッシャ&ポータ社 でも、新モデルを開発すると旧モデルを生産中止していました。米国の会社ですから他社から中途採用者が多くいましたが、誰もが生産中止を疑う風もなく実施していました。この管理方法が日欧米で広く受け入れられている現れです。 旧モデルを生産中止すると、新旧顧客を新モデルに引き寄せてその生産量の増加ができると信じているのも中止する理由の一つです。 エム・システム技研社長 宮道氏は、北辰電機製作所を退社してエム・システム技研を創業するに当たり、北辰電機で不愉快だったことは自分の会社に持ち込まないと決めて26年続けています。 製品の生産中止はしない。ひとたび世に出した製品を出荷しつづけることは、ご採用いただいた顧客へのメーカー責任であると考えています。モデル変更はしない。タイムカードは(パート社員以外)使わないなどです。 このように、製造会社の通念とは違った経営理念をもっています。 北辰電機で宮道氏が販売課にいたとき、客先に製品の製造中止とモデル番号の変更を話すと、いつも苦情、小言を言われて不愉快だったと話しています。顧客に苦情、小言を言われるのは、客先に迷惑をかけていて決して奉仕になっていないと信じています。 エム・システム技研には、カップル変換器だけで42機種あります。M・UNIT、JXシリーズ、みにまるシリーズ、18・RACKシリーズなど(順序不同)製品シリーズのおのおのに1機種ずつあるからです。42機種中4機種を写真で示します。市場要求の進化に応じて次々に新製品シリーズを開発しました。このとき以前からある製品の生産中止をしませんから、このように多機種になりました。さらに、すべての列挙はしませんがアイソレータ、測温抵抗体変換器、周波数変換器など多数の製品があって、ほとんどの製品についても同様のことがいえます。 MBAのマーケティングや生産管理の教授もメーカーのマネージャーも、言わば経理理論の主流を踏む学識経験者は、ここの多種少量生産ぶりを見ると似た製品の多さに驚かれるでしょう。内心はエム・システム技研は標準化を知らない、生産管理と製造技術で拙劣と思われるでしょう。ここまで放置した会社は、経営技術が非常に初歩的と認定されるに違いありません。 私はMBAコースで多種少量生産について話すに当たり、「多種」とは何か、とくにどこからが多種でどこまでがそうでないか分岐点を実例で考察しました。 たとえば、私が勤務した会社にはアメリカ工場、ドイツ工場、フランス工場、カナダ工場などと主なものだけで6工場ありました。5、6機種を作りながらどの製造もスムースにできないもの、新機種をどんどんこなしていくものと工場の間に差がありました。必ずしも大きな工場のできがよいわけではありませんでした。 アメリカでは1930年代から、製品でもそれを作る作業でも標準化の思想が普及しています。アメリカ工場では標準化が拡大解釈に陥り、顧客の不便さを顧みないで自社側の製造優先にまで傾いていました注)。製造機種を少なくして製品、部品の標準化をするために旧モデルの生産中止が方針になっていて、新製品開発基準書に入っていました。旧モデル生産中止委員会という定期会合もありました。ここまで標準化しながら生産の流れは止まりがちでした。 カナダ工場は比較的小さい工場でしたが、ここの製造部長が創造力も人事管理能力もある人で多機種をこなすだけでなく、自社製特殊部品を他工場にも供給していました。 このような考察の結果、「多種」は会社の生産管理と製造技術の能力、さらに加えて製品品質管理能力で決まると結論しました。2機種でも能力が低い会社にとっては「多種」です。カップル変換器だけで42機種作っても、製造をこなす能力がある会社にとっては「多種」ではありません。 エム・システム技研では、Just-in-timeを採用していますが、主な製品は受注後4日以内出荷の方針を守っています。1997年度に25万台以上の変換器を出荷して、約束納期達成率が99.99%と高く、年間不具合発生率が200ppmと低いです。しかも、公表はしていませんが、原価率も非常によいです。これを無数に多い機種を抱えて実現していますから、生産管理と製造技術と品質管理の能力が高いと結論するよりほかはありません。 新モデルを発売しても旧モデルを廃止しない方針の実現には、この能力を地道に向上するほかはなかった結果と推察します。 生産中止をしないのは、エム・システム技研だけか、もしほかにあっても僅少です。したがって、新モデルを出したときに旧モデルの生産中止をするのとしないのとの効果を比較をしている経営論文も見当たりません。エム・システム技研のデータを見る限り、旧モデルを生産中止すると新旧顧客が新モデルに集まると考える根拠は薄いようです。盲信に近いと言えるでしょう。最も歴史が長いM・UNITには根強い継続需要があり、新製品のみにまるシリーズを発表した後も売上は成長しています。みにまるシリーズの売上はM・UNITの売上の上積みになっています。それ以外の新製品追加でも同様でした。 以前の経験を振り返ってみると、生産中止をして顧客が自社新モデルに移行する可能性はありますが、これを機会に競争会社製品に転換される危険性が高いと、改めて実感しました。 TV、CDプレーヤー、乗用車などの消費者製品と異なり、工業設備向け製品は、客先が長年にわたって繰返し同じ製品を購入されます。これが上に観察したような傾向を作ると思います。とくに生産中止という自社の都合を顧客に押し付ける動きは、顧客優先ではありません。■ 注)1970年、1980年代に組合主義とともにアメリカを弱体化した顕著な傾向。 |
| |||||
|