2016-2017 計装豆知識
エムエスツデー 2017年7月号
紛争鉱物規制と米国再輸出規制
安全保障にかかわりのある「紛争鉱物規制」と「米国再輸出規制」についてご紹介します。
ここ数か月、隣国である北朝鮮が複数回のミサイル発射を強行するなど、日本を取巻く安全保障にかかわる状況は、一段と厳しさを増しているといえます。そこで今回は、計装機器の取引に関しても無関係とはいいきれない、安全保障にかかわりのある「紛争鉱物規制」と「米国再輸出規制」についてご紹介します。
「紛争鉱物規制」と「米国再輸出規制」は何を規制している?
「紛争鉱物規制」は、紛争地域の武装勢力に対して、武器などの購入資金となる活動資金の供給を断つことを目的とする規制です。
一方「米国再輸出規制」は、大量破壊兵器の開発を行っている国家やテロリストに対する、武器そのものや軍事に転用可能な民生用製品や技術の供給を断つことを目的としている「安全保障貿易管理」の一つです。
「紛争鉱物規制」の概要
図1にて「紛争鉱物規制」の要点について説明します。
この規制は、米国のオバマ政権下で2010年7月に成立した金融規制改革法1502条(通称:ドット・フランク法)を根拠法としています。規制対象は、米国証券取引所に上場している製造業者などであり、彼らに対して、コンゴ民主共和国および周辺9か国から輸出された紛争鉱物(3TG)(図1中の注釈参照)の自社製品への使用有無の調査と、米国証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)への報告を義務づけています。規制を受ける企業は限られていますが、彼らからの調査依頼が、サプライチェーンを遡り、上流の企業にも、実質的に調査報告をする義務が発生しています(なお、本規制は、当該地域由来の紛争鉱物の「使用を禁じる」または「不使用を宣言させる」ためのものではなく、あくまで調査・報告をさせるものです)。
図2にて本規制の目的を整理・説明します。
上記紛争鉱物の産地であるコンゴは、長く内乱状態にあり、政府と対立する武装勢力が、地域住民に対して組織的暴力を加えているといわれています。また、住民を強制的に鉱山で働かせて得た鉱物を輸出し、資金を得て、新たな武器を購入し、さらに暴力を繰り返すという悪循環が発生しているともいわれています。この資金を断つのが本規制の目的といえます。
図3にて、調査方法の概要について説明します。
本調査は1社だけで完結できるものではなく、サプライチェーンの川下に位置する米国の製造業者から、川上に位置する何段階ものサプライヤーを遡っていく必要があり、莫大なリソースを必要とします。それを少しでも効率化するため、CFSI(Conflict-Free Sourcing Initiative)という団体が定めたCMRT(Conflict Minerals Reporting Template)と呼ばれる紛争鉱物報告書定形書式が、自社からの報告やサプライヤーへの調査依頼に、一般的に使用されるようになっています。
また、製錬された金属から、その産地を特定することは非常に難しい作業です。そのため、CMRTでは、製品/部品に使用された金属が、どこの産地由来であるかを回答するのではなく、どの製錬業者由来であるかを回答するフォーマットになっています。また、武装勢力とのかかわりがない製錬業者はリスト化されていて、これら2つの情報を突き合わせて、使用している金属の由来を証明することになります。
「米国再輸出規制」の概要
図4にて「米国再輸出規制」の概要について説明します。
この規則は米国の再輸出規則(EAR:Export Administration Regulations)に基づくもので、米国原産の製品、技術、ソフトウェアが、米国から輸出された後に、輸出先の国から第3国に再輸出される場合に、仕向地、使用者、輸出貨物・技術の種類、製品や技術の輸出全体に対する比率などによって、規制をうけるものです。
本規制は米国の国内法によるものであるため、米国外の企業が遵守する必要は必ずしもありませんが、違反した場合、罰金、禁固、取引禁止顧客としての指定などが行われ、その際は米国と取引できなくなることから、実質的に遵守する必要があります(米国による「域外規制」)。このため、米国原産品、あるいはそれらを組込んだ製品を輸出する際は、下記の内容を確認する必要があります。
1. 含有比率は、どれくらいか? 2. 規制品目リストの対象か?
3. どの国に輸出するのか? 4. 誰が受け取り、使用するのか?
5. 何のために使用するのか?
エム・システム技研の取組み
「紛争鉱物規制」に関しては、部材メーカー各位に対して、CMRTを用いた調査依頼を実施して情報を収集するとともに、お問合せをいただいたお客様に対しては、エム・システム技研製品についての対応状況をご回答させていただいています。
また、「米国再輸出規制」については、エム・システム技研製品は、すべて規制の「対象外(*1)」であることを確認しており、個別にお問合せいただいたお客様に対しては、その旨ご回答させていただいています。
なお、エム・システム技研製品は、日本国の輸出貿易管理令別表第1(外国為替令別表)で定められたリスト規制貨物(技術)に対し、「非該当」または「対象外」であることも、併せて確認しています。
<参考文献>
・JEITA(責任ある鉱物調達検討会) 紛争鉱物問題に関して
・(株)東レ経営研究所 経営センサー2012年12月号
・CFSI(Conflict-Free Sourcing Initiative)のWebサイト
・CISTEC (Center for Information on Security Trade Control)米国再輸出規制入門
・在日米国大使館商用部 米国輸出規則の説明
(*1) 製品に、米国原産品・技術・ソフトウェアを含んでいないか、含んでいても比率が十分に低い
(価格比率10%以下)。
【(株)エム・システム技研 設計部】