電気回路
- 高調波について/2003.5
- 交流電力トランスデューサの動作原理/2012.7
- 交流の測定/2003.2
- 交流の表現と演算方式/1999.2
- 終端抵抗/1993.9
- 接点保護の常識と落とし穴/1995.7
- 0~10,000Vの電圧信号よりもノイズに強い4~20mA DC電流信号/1993.10
- 電気回路/2006.3
- 電力デマンドとは/2018.10
- 電力の基礎(その1)/2006.5
- 電力の基礎(その2)/2006.6
- 電流信号の端子の+と−/1996.8
- 配線とノイズ(1)/1997.11
- 配線とノイズ(2)/1997.12
- 配線とノイズ(3)/1998.2
- PTですか、VTですか?(計器用変圧器の略称について)/1994.6
エムエスツデー 2006年6月号
電力の基礎(その2)
力率を改善すれば得をする
今月は、力率を改善すれば電気料金を節約できることをご紹介します。
交流の有効電力は(1)式のように定義されています。
P = Ve ・I e ・cosφ …(1)
Ve は電圧の実効値、Ie は電流の実効値で、cosφは力率です。φは電圧と電流の位相差です。
(1)式で、cosφが小さくなったとき同じ有効電力を得ようとすれば、Ve ・Ie つまり皮相電力を大きくしなければなりません。電力会社から送られてきた電圧は、一般に変圧器で降圧してから使用します。しがたがって、皮相電力が大きくなるということは、変圧器などの設備が大きくなるということにもなります。
さらに(1)式で、Ve が一定とすると、cosφが小さくなれば Ie を大きくしなければなりません。Ie が大きくなれば配電線の抵抗による損失が大きくなりますから、より太い配電線が必要になります。
そこでcosφを大きくする(1に近づける)、つまり力率を改善することによって、設備が有効利用できるのです。さらに、電気料金には、力率割引制度というものがあります。85%を基準に、力率が1%良くなるごとに基本料金が1%安くなるというものです。逆に力率が1%悪くなると基本料金は1%高くなります。
では、力率はどのようにして決められるかというと、まず電力会社が取り付けている積算電力計によって、有効電力量と無効電力量が計量されます。消費した電力に消費する時間を掛けたものを電力量と定義しています。この両者の1か月分の積算値からその月の力率が計算されます。たとえば、有効電力量が200kWhで無効電力量が100kvarhであればその月の力率は、図1に従い89%となります。
89−85=4ですから、この月の基本料金は4%割引きになります。
それでは、力率を改善するためにはどうすればよいのでしょうか?
コンデンサに交流の電圧を加えると、電流の位相は90°進みます。力率を改善するには、主にコンデンサが用いられ、負荷と並列に取り付けます。しかし、コンデンサには、交流周波数が上がれば上がるほど電流が流れ易くなるという性質があるため、夜間など大量のパソコンやテレビが使用されると、高周波電流がコンデンサに流れ込み、コンデンサが焼けてしまう恐れがあります。
コイルには反対に、交流周波数が上がれば上がるほど電流が流れにくくなるという性質があります。
そこで、コンデンサにコイル(一般にリアクトルという)を直列に取り付けて(図2)、高周波電流がコンデンサに流れ込むのを抑制します。
ところで、力率による割引前の基本料金は、電力会社と結ぶ年間の「契約電力」によって決まります。より少ない電力使用量で契約すればもちろん料金は安くなります。だからといって使用量が契約量をオーバーしてしまえば、ペナルティを払うことになるため何にもなりません。
そこでデマンド値の管理が必要になってくるわけです。
年間の契約電力の基礎になるのは、瞬間電力使用量です。最適の電力を契約するためには、デマンド値を監視して、まずは1年の間のどの時期に最大の電力使用量になるのかをつかむのがポイントです。電力会社によって差はありますが、電力の使用量が多くなる夏期は、冬季に比べて電力料金が高くなっていますから、夏期の電力量を抑えるのが肝心になってきます。
その次の段階として、もう1ランク安い契約料金を目指すのであれば、使用している電力が、契約電力に近づいてきた場合に警報を出して知らせ、対策をとるシステムを構築することが考えられます。