第2回 「デマンドレスポンス(DR)」の最近の動向

(株)エムジー 顧問 富田 俊郎

はじめに

「デマンド」という言葉は従来、産業システムやビルシステムでもよく聞く言葉ですが、今までの「デマンド監視制御」は契約電力量を超えないように消費電力を予測しながら警報を出したり、必要によっては設備機器の電源を制御したりしていました。今回出てくる言葉「デマンドレスポンス」は電力の需給調整のことでデマンド監視制御とは異なる機能です。

デマンドレスポンスとは

「デマンドレスポンス」は、「電力の需要側が供給状況に合わせて消費パターンを変え効率的に電力を利用する仕組み」です。前提として、電力の安定供給には、発電量と消費量が常に一致している必要があり、電力会社は電力需給の変動に合わせて発電量を変えて需給バランスを一定にしています。
従来、日本では全く異なる電力供給の考え方が主流で、電力供給側は十分な余裕をもって需要側に安定した電源を供給するという思想で運営されていました。しかし昨今の地球温暖化に対して、SDGsの思想に基づく脱炭素が世界的な潮流となり、太陽光発電や風力発電など、ベース電源にはならないタイプの電源を含めて供給側と需要側の電力総合制御が要求されています。

図1 デマンドレスポンスの仕組み

図1 デマンドレスポンスの仕組み

アグリゲータは、英語で「集約する」という意味を持つ「アグリゲート(aggregate)」からきた言葉です。その名のとおり、多くの需要家が持つエネルギーリソースを束ね、需要家と電力会社の間に立って、電力の需要と供給のバランスコントロールや、各需要家のエネルギーリソースの最大限の活用に取組む事業者のことです。

デマンドレスポンスによる需要量調整

このようなデマンドレスポンスの試みは、古くは1990年代の米国カルフォルニアで試行されたことがあり、日本では深夜電力と昼間電力の2種類の価格で、深夜電力が安いという構成でしたが、米国では当時15分単位で電気料金が変動するマルチプライシングが運用されており、需要側はより細かい時間単位でよりコスト効率の高い電力の選択が可能なシステムでした。しかしながらベース電源(火力発電や原子力発電など)とベース電源にはならない電源(太陽光発電や風力発電など)の組合せが必要な現在では、デマンドレスポンスによる需給調整は必須となってきています。デマンドレスポンスは発電量が不足するケースでは、需要制御のパターンによって、需要を減らす(抑制する)「下げDR」と、余るケースでは需要を増やす(創出する)「上げDR」の2つに区分されます。下げDRはDR発動により電気の需要量を減らし、上げDRはDR発動により電気の需要量を増やします。

図2 上げDRと下げDRによる需給量の調整

図2 上げDRと下げDRによる需給量の調整

デマンドレスポンスとBEMS、HEMSにおけるOpenADRの役割

電力会社とアグリゲータおよび複数の需要家間の通信は、デマンドレスポンスにおける通信の世界標準規格である「OpenADR」規格が採用されています。異なる組織や異なるメーカーのOpenADR対応機器との通信により、BEMSやHEMSまた設備機器デマンドレスポンスを制御することが可能となっています。

図3 デマンドレスポンスにおけるオープンな通信規格OpenADRの役割とBEMSの例

図3 デマンドレスポンスにおけるオープンな通信規格OpenADRの役割とBEMSの例

最近の動向

昨年度の省エネ法改正により、定期報告制度の対象となる工場やオフィスがデマンドレスポンスの実績などを報告することを通じて、デマンドレスポンスを促す措置が導入されています。すでに、電力会社や特定卸供給事業者(以下「アグリゲータ」)との契約を通じて、電炉のような出力が大きい施設の稼働時間を調整するデマンドレスポンスの取組みが進められており、デマンドレスポンスの拡大につながることが期待されています。他方で、家庭や小規模なオフィスにおいては、上げDR下げDRの一件あたりの出力が少量となるため、大規模な工場と比べると小規模な対象の進展には時間がかかることが予想されています。また、こういったデマンドレスポンスを人の手作業(行動誘発)で継続していくことは困難と思われるので、将来的には、これらのリソースを遠隔制御(もしくは自動制御)できるアグリゲータなどのサービスが多数存在しており、住宅などに設置される様々な機器に遠隔制御機能が標準的に装備されることが期待されています。

【コラム】デマンドレスポンスの最近の話題

1. SDGs、GXやカーボンニュートラル実現のためのキー技術

2. 重点施策である再生エネルギーの急激な拡大

3. 大口需要家へのデマンドレスポンスの普及

4. データセンターなどの需給調整への利用

5. 家庭や小規模オフィス用小型機器へのDR対応促進