セントラル空調の冷温水搬送システム(1)

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(株)エムジー BA事業部

1.冷暖房の熱媒体

セントラル空調方式のビルでは、冷凍機やボイラなどの熱源機で作られた熱エネルギーを、熱媒体を介して各階の空調機やファンコイルユニットに送っています。その熱媒体としては水が使われています。では、なぜセントラル空調の熱媒体に水が使われるのでしょうか?

水には次の様な性質があります。

①比熱が大きい

単位質量あたりの物質の温まりにくさや冷めにくさを数値で表したものが比熱です。具体的には、1[g]の質量の物質の温度を1[K](1[℃]と同じ)上げるのに必要なエネルギーを表した数値で、単位は[J/g・K](ジュール毎グラム毎ケルビン)になります。この数値が大きいほどその物質は温まりにくく冷めにくい、冷やしにくく温めにくいということになります。水の比熱は4.185[J/g・K](*1)であり、この数値はほかの物質と比べても大きな値です(表1)。身近なところでは、夏の海水浴場で直射日光にさらされた砂浜は歩けないくらい熱いのに、やはり直射日光にさらされている海の水は冷たいままです。これは砂浜の砂に比べて水の比熱が大きく、夏の直射日光でも水は温まりにくい物質であることから起こる現象です。このことからも水の比熱がいかに大きいかということを感じることができます。

表1 物質の比熱
表1 物質の比熱
(*1)温度による水の比熱
比熱は物質の温度によっても変化します。4.185 [J/g・K]は水が20[℃]の時の比熱です。ちなみに0[℃]では4.217 [J/g・K] 、50[℃]では4.180[J/g・K]になります。


②化学的に安定

水は常温常圧下では、ほかの物質とほとんど反応せず、またほかの物質を腐食させたりしないきわめて安定で安全な、そしてとても扱いやすい液体です。
これらの性質に加え安価で入手しやすいことから、セントラル空調の熱媒体には水が使われています。
ビルの地下や屋上の熱源機で作られた冷水や温水は、ポンプによって各階にある空調機やファンコイルユニットに送られ、そこで室内空気と熱エネルギーの熱交換がなされ、熱源機に戻ってきます。

2.冷温水の搬送システム

セントラル空調の冷温水の搬送システムには密閉式と開放式があります。図1は冷水の場合のそれぞれの配管の概略図です。温水の場合も熱源機が温熱源になるだけで、配管構成は同じです。

図1 セントラル空調の冷温水搬送システム配管概略図(冷水の場合)
図1 セントラル空調の冷温水搬送システム配管概略図(冷水の場合)

密閉式(図2)は循環水が大気と接する部分がほとんどないため、水質管理がしやすく水処理費用も安くなるメリットがあります。また、水の圧力基準面が膨張タンクの水面になるのでポンプの揚程(*2)は配管抵抗分があればよく、ポンプサイズを小さくできます。なお、膨張タンクは循環水の温度による体積の膨張や収縮を吸収するタンクです。
また、ポンプ軸受けからの漏れ水(図3)や配管洗浄のためのブロー排水の補給も膨張タンクが行います。膨張タンクへの水の補給はボールタップバルブ(家庭のトイレのタンクにあるボールタップバルブと仕組みは同じです)が行います。


(*2)揚程
ポンプが水を押し出す圧力を水柱で表した数値で単位は[m]です。たとえば、ポンプの吐出圧力が300[KPa]であれば、揚程は30[m]になります。
図2 密閉式
図2 密閉式
図3 冷温水用ポンプ

冷温水用のポンプは軸受けの冷却と潤滑のため、軸受け部分から常に少量の水が漏れるようにしてあります。

図3 冷温水用ポンプ

規模が大きなビルでは図4のような2次ポンプシステムが採用されます。この場合も、2次ポンプの揚程は配管抵抗分の揚程があれば水は循環します。
開放式(図5)は水の圧力基準面が蓄熱層の水面になり、そこから各階に水を押し上げなければならないので、ポンプの揚程は「高さ分の水頭圧+配管抵抗」となるためポンプサイズが密閉式に比べ大きくなります。また、蓄熱層で水が大気と接しているので、水の酸化による配管の腐食が起こりやすくなります。そのため、配管には耐腐食性のある白ガス管を使用するなどの対策が必要です。そのほか、浮遊物などの混入もあるのでこまめな水質管理が必要です。メリットとしては、空調時間外でも冷凍機を稼働することができるので、夜間電力による電気料金の削減ができることや、冷凍機の設備容量を小さくすることができます。また、資源エネルギー庁が推進する電気需要の最適化にも寄与します。

図4 2次ポンプシステム
図4 2次ポンプシステム
図5 開放式
図5 開放式

次回は冷温水搬送システムの自動制御について解説します。

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