SDGsとGXよもやま話
第5回 ビルディングオートメーションに変革をもたらす新しい制御AI
(株)エムジー 顧問 富田 俊郎
はじめに
ビルディングオートメーションは、私たちの生活においてますます重要な役割を果たしています。ビルの運用を効率化し、快適な環境を提供するために、ビルディングオートメーションは欠かせません。しかし、従来のビルディングオートメーションの制御にも限界があります。そこで、ビル制御に特化したAIが登場します。新しい制御AIは、従来のビルディングオートメーションではカバーできなかった制御分野に変革をもたらし、SDGsとGXの実現に新しい制御と分析の可能性をもたらします。今回は制御AIがビルディングオートメーションにどのような影響を与えるか、その実例と可能性について紹介します。
制御AIの実例と効果
制御AIでは、個別の制御機器あるいは一つのフロア領域のみではなく、ビル全体にわたる大量のデータを学習し、そのパターンや特徴を学習して次の事象を予測します。単純な制御ループのフィードバック制御ではなく、ビル全体の事象を予測制御することにより高度な制御を実現しています。制御AIは、ディープラーニングが活用されており、入力と出力の間を結ぶ近似関数(モデル)を柔軟に作り出すことができ、多層のニューラルネットワークを使用して大量のデータからビルがどのように機能しているかを学習し、潜在的な改善のパターンから推定される予測先行制御を実現しています。図3ではHVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning:空調制御システム)への適用例を、また図4ではその効果の例を示しています。
制御AIの動作の例
ビルのすべてのHVACコンポーネントを一つの最適化されたエコシステムのようにAIを使用してマネージメントするシステムの例を示します。このシステムと方法とは収集された全データ、天候予測また在不在情報などから得られるHVACへの要求をAIのアルゴリズムを使用して先行予測することにより、HVACの制御を最適化します。従来のシングルループ単体の固定設定値による最適化ではなく、システム系全体に対して設定値をAIによりダイナミックに予測し全体を制御するアドバンスト制御構成の例を図5に示します。
図5 制御AIの動作例
ビルのAI空調管理システムは、管理費用が増加せず、電気代の削減もでき、さらには脱炭素社会の実現も可能なスマートビルディングを実現しています。最新のAIが居室内の気温の変化を高精度で予測し、空調を制御します。これにより、建物の消費電力を削減するとともに理想的な快適空間を実現します。現在世界中で285箇所以上のビルや商業施設などで導入されているAIシステムの例では、制御AIを導入することにより「ビルの総エネルギーコストを平均25%削減」「二酸化炭素排出量の20~40%削減」「ビル内入居者満足度の60%向上」の効果が見込まれ、また空調制御をAIが行うため、人による管理工数の削減も期待されます。
【コラム】制御AI導入のポイント
1. AI導入にはトップの理解と指導が必要
2. 省エネ効果に有効な制御AIから始める
3. 従来の個別ループ制御からビル全体の総合AI制御を導入
4. 大規模データ収集を利用したAI分析結果の可視化
5. 生成AIと制御AIの連携で先進の予測制御とデータ分析