SDGsとGXよもやま話 第7回 さまざまなビルを有機的に接続するビルOSの現状
(株)エムジー 顧問 富田 俊郎
はじめに
地球温暖化対策として、都市の各機能が単独でなく有機的に結合して省エネを達成することが求められています。従来、都市機能はそれぞれ個別に開発と実装がされてきたため、重複開発の大きなむだがありました。また得られたデータを相互利用するのも難しく、高コストとなっていました。またビル機能も同じように、類似の機能が個別に実装されてきており、ビル機能および収集データを相互活用することが難しく高コストの原因となっていました。都市機能に都市OS、スマートビルにビルOSを導入することにより、それぞれのビル機能とデータを相互活用して、従来のレベルを超える省エネを達成することができ、より効果的な温暖化対策に貢献します。
スマートシティとスマートビル
ビルは現在も単独で機能するものが多く、ビル機能の相互連携は苦手な分野でした。しかしながら国が推進するスマートシティ、スマートビルの導入により、ビルOSを介して複数のビルがビル群として省エネをしたり、ビル機能の連携によりビルシステムの違いを気にせず必要なサービスを提供したりできるようになります。都市も従来個別のサービスをそれぞれの都市が独自に開発運用してきており、都市相互に運用することは難しい分野でした。都市OSは都市レベルのサービスを相互に利用しあうことにより、開発の重複を避け、よりスピーディーに効率よく住民サービスを提供することが期待されています。

図1 都市OSの構成例
スマートビルの構成要素の一つ「ビルOS」の現状
「ビルOS」とはBuilding Operating Systemの略称です。
ビル設備に関連するデータを収集・蓄積・連携する機能を備えたデータ連携基盤のことで、ビルOSには、次の主要な機能があります。
- ビル設備と外部システム間の通信仕様の違いを吸収し、相互の連携を可能にする。
- ビル設備から取得したデータを最適な状態で蓄積・管理する。
- ビル設備と外部システム間でデータの送受信を可能にする。
たとえば、ビルOSを取入れていないビルでは、エレベータや空調・照明などのサブシステムがそれぞれ固有の形式のデータで稼働しています。しかし、ビルOSを取入れることにより、統一したAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)でアクセスすることが可能となるため、サブシステム間の設備データ連携が可能となります。
都市OSとビルOSのサービス機能の例を図2に示します。また代表的なゼネコン各社のビルOSの例を表1に示します。これらの実装も進んでいます。
このように、各ゼネコンはそれぞれのビルOSを通じて、スマートビルの実現に向けた取組みを進めています。とくに、アプリケーション層とフィールド層の連携が重要であり、これによりビルの運用効率や快適性が向上しています。たとえば、清水建設のDX-Coreは、館内ロボットとの連携を強化し、利用者の利便性を高めています。また、竹中工務店のビルコミは、都市OSとの連携を通じて、より高度なデータ活用ができる世界標準のAPIを実現しています。

図2 ビルOSに期待されるサービス

表1 日本の代表的なビルOS
日本発の「スマートビルガイドライン」で互換性のある標準ビルOSを提案
政府は、デジタル⽥園都市国家構想基本⽅針において、スマートビルに関するアーキテクチャ設計に取組む⽅針を⽰し、経済産業省およびDADC(*1)はスマートビルに関するアーキテクチャの検討を行い、2023年5月に「スマートビルガイドライン」が正式にリリースされました。このなかでビルOSに関するアーキテクチャが示され基本的にビルOSはこのガイドラインに沿って開発されることを推奨しています。これにより各ゼネコンが独自に開発してきたビルOSがこのガイドラインに基づいて設計開発されることにより、標準化された互換性のあるビルOSとなることが期待されています。

図3 スマートビルのレイヤー構造と協調領域の例
【コラム】スマートビルが貢献するキーポイント
日本のビルシステムは、従来のビルシステムの範囲を超えて地球温暖化対応やSDGs、スマートシティへの対応が要請されており、ますますその重要性が認識されてきています。
- ビルOSの標準化によるAPIでビル間のアプリの相互活用
- 都市OSの標準化で都市間サービスの相互提供
- 地球温暖化対応、SDGs対応、エネルギー統合のツール対応など
- スマートシティ実現の要素としてスマートビルの役割の実現
- フレキシブルな相互連携の実現
(*1)DADC(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)とは、2004年に発足した経済産業省所管のIT政策実施機関となる情報処理推進機構(IPA)の傘下の組織