計装豆知識
PID制御のパラメータ調整 ー 限界感度法とその応用
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PlD制御のパラメータを最適な値に調整するための方法を大きく分けると、制御ループを開いた状態でプロセスの特性から求める方法と、制御ループを閉じた状態でループの応答から求める方法があります。
前者ではステップ応答法(*1)がよく知られていますが、今回は後者の代表例として限界感度法とその応用例について解説します。
PIDパラメータの効果
最初にP(比例)、I(積分)、D(微分)各動作の効果について簡単にまとめておきます。
比例帯(PB)を小さくして(比例ゲインを上げて)いくと
- 応答は振動的になり、ついには発散する。
- 外乱や目標値変更への修正動作は早くなる。
- オフセットが小さくなる。

図1.1 PID動作で比例帯を変えた場合
積分時間(TI)を短くしていくと
- 応答は振動的になり、ついには発散する。
- オフセットを早くなくせる。

図1.2 PID動作で積分時間を変えた場合
微分時間(TD)を長くしていくと
- 振動的な応答を抑える効果があるが、長くしすぎると短い周期の振動が発生する。
- オフセット量は変わらない。

図1.3 PID動作で微分時間を変えた場合
以上について、各パラメータを変更した時の応答例を図1.1~1.3に示します。
ジーグラー・ニコルスの限界感度法
閉ループの応答から最適なPIDパラメータを求める代表的な方法として、ジーグラー・ニコルス(Ziegler Nichols)の限界感度法があります。
限界感度法では制御ループをP動作のみの状態にして(積分時間は最大、微分時間は最小にして動作を無効にしておき)、最初に十分大きい比例帯を設定して制御をスタートします。比例帯を少しずつ小さくしていくと、ループは振動的になり、やがて一定振幅の持続振動になります。その時の比例帯(限界比例帯:PBu)、および振動周期(限界周期:Pu)から、表1にもとづきPIDパラメータの値を算出します。この値は、設定値の変更および外乱に対して1/4減衰(*3)を与えられるとされていますが、実際にはプロセスによって多少の調整が必要です。

表1 ジーグラー・ニコルスの限界感度法
限界感度法の応用
ジーグラー・ニコルスの限界感度法ではループに持続的な振動を発生させる必要があるので、実際のプロセスでは運転リスクを避けるために実施が許されないケースもあります。そこで、限界感度法にもとづく、より実践的な最適調整の方法として、トライアンドエラーによってPID定数値を調整する方法を紹介します。
最初は制御ループをP動作のみの状態にしてスタートし、比例帯→積分時間→微分時間の順で調整します。各パラメータは、動作として弱い方から強い方へと少しずつ変更していきます。パラメータを変更したら、その都度設定値をステップ状に変更してループの応答を見ます。
以下に具体的な手順を示します。
(1)比例帯(PB)は、十分に大きい値(たとえば400%)から徐々に小さい値へと変えていきます。測定値の振動が出てきたらその値で止めます(図2.1参照)。

図2.1 比例帯(PB)の調整
(2)積分時間(TI)を大きい値から徐々に小さい値へと変えていきます。比例帯と同様に設定値をステップ状に変更して、図2.2のように測定値がゆっくりと振動し始めたらそこで止め、少し大きい値に戻します。

図2.2 積分時間(TI)の調整
(3)微分時間(TD)は0からスタートし、少しずつ大きい値に変えていきます。図2.3のように測定値に短周期の振動が現れたら止め、少し小さい値に戻します。

図2.3 微分時間(TD)の調整
(4)最後に、測定値の振動が始まらない程度で比例帯を小さな値に微調整します。
以上で、PIDの各パラメータはほぼ最適値になるはずです。なお、オーバーシュートが好ましくないプロセスの場合には、比例帯を最適調整値より若干大きめの値にし、逆に制御スピードを優先して多少オーバーシュートしても構わないプロセスであれば、比例帯を小さめの値に調整します。
以上、PIDパラメータの最適な調整について解説してきましたが、プロセスの特性を図3に示すようなむだ時間要素と一次遅れで近似した場合、むだ時間の値Lを一次遅れ時定数Tで割った値(L/T)が0.5以下であれば、おおむね良好な制御結果が得られます。
なお、強い非直線性(ノンリニア)の特性をもつプロセスや運転条件(たとえば処理量や生産量など)が大きく変動するプロセスでは、1組のPIDパラメータでは制御範囲のすべてを最適な状態にカバーできないことがあります。そのような場合には、制御範囲の何点かであらかじめ最適パラメータを求めておき、運転条件に応じてパラメータを自動的に切替える機能を制御システムに組込んでおき、対処する方法もあります。

図3 プロセスのむだ時間と一次遅れ時定数
〈参考文献〉
「松山 裕:だれでもわかる自動制御(省エネルギーセンター)
川村貞夫・石川洋次郎:工業計測と制御の基礎(工業出版社)
シンスキー(岩永正雄・小川 積幸・栗原 宏文・長山 千五郎 訳):プロセス制御システム(好学社)
千本 資・花淵 太 共編:計装システムの基礎と応用(オーム社)
(*1) | 2025年7月号「計装豆知識」をご覧ください。 |
(*2) | 制御ループの振幅が1周期毎に1/4に減衰することです。2025年7月号「計装豆知識」をご覧ください。 |
(株)エムジー 広報部