計装豆知識
PID制御のパラメータ調整 ー ステップ応答法
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最近のコントローラやPLC/DCSにはPID制御ループのオートチューニング機能が付いていて、誰でも簡単にPIDパラメータの調整ができるようになりました。しかし、場合によってはオートチューニングでは思い通りの結果が得られなかったり、プロセス上の制約などにより、手動設定による調整が必要になることがあります。
今回はステップ応答法によるパラメータの調整方法について解説します。
PIDパラメータ調整の目安
PID制御ループでは、通常次の2つを目安にしてPIDパラメータ(比例帯、積分時間、微分時間)を調整します。
- 目標値を変更したとき、できるだけ速く測定値が目標値に一致するようにすること
- 外乱によって測定値が目標値から外れたとき、できるだけ速く元に戻すこと
図1は制御ループで目標値(SP)をステップ状に変更したときの測定値(PV)の応答を示しています。測定値は、最初目標値をオーバーシュートしたあと、振動しながら目標値に落ち着きます。オーバーシュートした量を行きすぎ量といい、その後測定値が目標値に一致するまでの時間を整定時間といいます。
多くの場合、オーバーシュートしないように調整すると測定値はゆっくりと上昇して行くので整定時間は長くなり、逆にオーバーシュートさせると整定時間は短くなります。一方、プロセスの種類によっては大きな行きすぎ量が問題になる場合もあり、オーバーシュートしないように調整するか、オーバーシュートを許すとしてもどの程度までにするかは、制御の目的によって異なります。以上のことから、許容内の行きすぎ量でかつ整定時間が最小になるようにPID定数を調整することが望ましいとされ、これを最適調整といいます。
最適調整の条件にはいくつかの種類がありますが、オーバーシュートが許される場合には図1に示す減衰比がよく用いられます。減衰比とは振動する制御ループの振幅が1周期毎に1/4に減衰することで、工業用にはこの程度の減衰が適当だといわれています。以上は目標値変更への対応についての説明ですが、外乱への対応についても同じようなことがいえます。すなわち、外乱が入って測定値が変化した後に、目標値を行きすぎてオーバーシュートするか、行きすぎることなく目標値に一致するかどうかの問題になります。目標値変更への対応と、外乱への対応とでは最適調整の条件が異なる場合がありますが、後述するZiegler
Nichols(ジーグラー・ニコルス)(*1)の最適調整法では目標値変更と外乱の双方に同じ条件(1/4減衰)を用いることができます。

図1 目標値変更のステップ応答
ステップ応答法によるプロセスの特性の調べ方
制御の対象となるプロセスの特性を調べるにはステップ応答法が一般的であり、プロセスが運転中でも実施しやすい方法です。これは、PID制御ループが動作を行っていない状態(マニュアル状態)で、調節弁をステップ状に一定開度変化させ、そのときの測定値の変化(ステップ応答)を測定する方法です。通常、調節弁開度を変化させると、測定値は最初ゆっくりと変化し、しばらくすると変化速度が速くなり、そのあとまたゆっくりと変化し最後には一定値に落ち着きます(図2参照)。
この応答結果のデータを使い、測定値の変化率が一番大きい所に接線を引きます。この接線と、最初の測定値θ0、最終的な測定値θ1に対応する横軸と交わる点A・Bを求めます。これより図2中に示すようにLとTを得ます。このLを等価むだ時間、Tを等価時定数といい、プロセスの特性を代表する数値になります。この等価むだ時間・等価時定数は次のような意味をもちます。
一般の制御プロセスでは、装置、調節弁、センサなどすべてが信号の遅れの要因となり、これらはおおむね一次遅れ要素の特性をもっています。さらに、複数の一次遅れ特性の要素が直列につながっていると、特性がだんだん崩れてきて、図2のような特性になります。

図2 プロセスのステップ応答例
また多くの場合、制御ループの中には純粋なむだ時間要素の特性(*2)も含まれ、等価むだ時間Lはその分だけ大きくなります。つまり、Lは複数の一次遅れによる見かけ上のむだ時間と純粋のむだ時間の合計になります。一方、純粋な一次遅れ要素と純粋なむだ要素の特性をもつプロセスのステップ応答は図3のような変化をします。すなわち、等価時定数と等価むだ時間とは、実際のプロセスのステップ応答を図3のステップ応答の形に近似するための手段になるわけです。

図3 純粋な1次遅れ要素とむだ時間要素の応答
プロセス特性にもとづくPIDパラメータの最適調整
ステップ応答法で得られた等価時定数T、等価むだ時間L、さらにプロセスゲインKpの値にもとづき、表1の方法に従ってPID パラメータの最適調整値を得ることができます。この方法をZiegler
Nichols(ジーグラー・ニコルス)の最適調整法といいます。
なお、自己平衡性のない積分性のプロセスの場合(*3)、ステップ応答法ではそのまま等価時定数T、プロセスゲインKpを得ることができないので、図4に示す方法で1分間あたりの測定値の変化率Rを算出し、表2から最適調整値を求めます。

表1 ジーグラー・ニコルスの最適調整法

図4 自己平衡性のないプロセスのステップ応答例

表2 自己平衡性のないプロセスの最適調整値(ジーグラー・ニコルスの最適調整法)
〈参考文献〉
「松山 裕:だれでもわかる自動制御(省エネルギーセンター)
川村貞夫・石川洋次郎:工業計測と制御の基礎(工業出版社)
シンスキー(岩永正雄・小川 積幸・栗原 宏文・長山 千五郎 訳):プロセス制御システム(好学社)
千本 資・花淵 太 共編:計装システムの基礎と応用(オーム社)
(*1) | 米国Taylor社のZiegler(ジーグラー)氏とNichols(ニコルス)氏により1942年に発表された最適調整法です。 |
(*2) | 2025年4月号「計装豆知識」をこ覧ください。 |
(*3) | 2025年1月号「計装豆知識」をこ覧ください。 |
(株)エムジー 広報部