雷保護関連のJIS規格
近年、雷の影響の受けやすい電子機器の普及や、電子機器のネットワーク化による被害範囲の拡大化などにより雷害に対する危機意識が高まっています。またJIS規格の国際的整合化の流れもあり、国際規格を取り入れた形で雷害対策(雷保護)に関連する規格の改訂、追加などが行われています。
今回は、主に避雷技術に関係する規格と避雷器(SPD*1)の選定方法について解説します。
*1. SPD (Surge Protective Devices :サージ防護デバイス)
雷保護関連のJIS体系
JISでは、落雷の影響に対して建築物や人間、電子機器などを保護するために使用するシステム全体を雷保護システムと定義しています。雷保護システムを構成する各規格に適合させることで、効率的で効果の高い雷害対策が可能となります。下表は、雷保護システムを構成する主な規格です。

図1
雷保護システムを構成する主な規格
①JIS Z 9290-3 建築物等の保護 (図1参照) |
外部雷保護システム 保護効率(保護レベル)に応じた避雷針や接地の施工方法の規格 | |
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内部雷保護システム 等電位ボンディング(被保護物内を等電位化し雷被害を減少させるため)についての規格 | ||
②JIS Z 9290-4 建築物内の電気・電子システムの保護 |
③JIS C60364 | 電気設備に対する雷保護SPDの選定・施工等についての規格 耐インパルスカテゴリ |
④JIS C60664 | 低圧系統内機器の絶縁協調についての規格 | |
⑤JIS C5381 | SPDの試験方法選定・適用基準 |
JIS対応避雷器の分類
JISでは、「電源用」と「通信・信号回線用」の2種類に避雷器を分類し、使用方法や試験方法を定めています。電源用のクラスI、通信・信号回線用のカテゴリDは、建築物への直撃雷が各線路に直接分流する恐れがある場合に使用します。それ以外の大部分は、電源用のクラスII、通信・信号回線用のカテゴリCの避雷器が使用可能です。
種類 | 試験波形 | 主な用途 | 主な設置場所 |
---|---|---|---|
クラスⅠ | 10/350μs | 直撃雷の一部が建築物に引き込まれる 低圧配電線に 分流する恐れがある場合 |
電力引込口(引込盤内) |
クラスII | 8/20μs | 誘導雷から被保護機器を防護する場合 | 分電盤内、制御盤内 |
クラスIII | コンビネーション波形 | 誘導雷から被保護機器を防護する場合 | 電気・電子機器の近傍 |
種類*2 | 試験波形 | 上昇率 (開回路電圧) |
主な用途 | 主な設置場所 |
---|---|---|---|---|
カテゴリA | 非常に遅い上昇率 | 1000μs以上 | 電源サージからの保護 | 分電盤、制御盤 |
カテゴリB | 遅い上昇率 | 10μs | 誘導雷からの保護 | 分電盤、制御盤 |
カテゴリC | 早い上昇率 | 1.2μs | 誘導雷からの保護 | 通信引込口、分電盤、制御盤 |
カテゴリD | 高いエネルギー | ー | 直撃雷の一部が通信線に分流する場合 | 通信引込口 |
*2. 短絡回路電流や印加回数によってカテゴリ内でさらに細分されます。詳細は、JIS C5381-21参照
直撃雷と誘導雷
クラスI試験で使用する直撃雷(10/350μs)の波形とクラスII試験で使用する誘導雷(8/20μs)の波形です。ピーク電流が共通でも、エネルギー(面積)には大きな違いがあります。

図2 雷サージ波形
避雷器(SPD)の設置例
JIS Z9290-4では建築物内の雷保護を行う場合、雷保護ゾーン(LPZ)という概念に基づいて避雷器の選定やボンディング、接地などを行います。また被保護機器については、JIS C60364で機器に必要な定格インパルス耐電圧を設置場所に応じて分類しています。これらの規格をもとに避雷器の設置例を図3に示します。


図3 避雷器の設置例とJIS規格
*3. 設備に直撃雷の侵入が想定される場合はクラスIを、そうでない場合はクラスIIを使用します。
具体的には、設備に受雷部(避雷針)が設置され、それが内部設備と共通接地されている場合に直撃雷の侵入が想定されます。
*4. 耐インパルスカテゴリと同義
*5. 機器内部に組み込む電子基板など
JISの用語一覧
JISの用語 | 略語 | 解 説 |
---|---|---|
サージ防護デバイス | SPD | 過渡的な過電圧を制限し、サージ電流を分流することを目的とする装置。避雷器のこと。 |
最大連続使用電圧 | UC | サージ防護デバイスに連続して印加してもよい電圧値。 |
定格負荷電流 | IL | サージ防護デバイスを経由して負荷に供給できる電流値。 |
電圧防護レベル | UP | サージ防護デバイスの性能を規定するパラメータ。制限電圧のこと。 |
インパルス電流 | Iimp | サージ防護デバイスが処理可能なサージ電流値。クラスISPDの性能として表記。 |
最大放電電流 | Imax | サージ防護デバイスが処理可能なサージ電流値。クラスIISPDの性能として表記。 |
公称放電電流 | In | クラスII試験で使用する電流波形(8/20μs)の波高値。試験条件を表す。 |