センサ
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エムエスツデー 2012年10月号
熱電対・変換器間の導線による温度測定誤差と対策
熱電対と補償導線*1による温度計測の注意点についてご説明します。
熱電対の配線抵抗による誤差
熱電対は、測温抵抗体とともに、工業温度計測においてもっともよく使われる温度センサです。熱電対による温度計測では、熱電対自身の配線抵抗についても検討する必要があります。
熱電対による温度計測では、熱電対回路が断線した場合、信号を最大値または最小値に振り切らすことによって温度制御を安全側に保つためのバーンアウト検出回路が設けてあります。
バーンアウト検出回路は、図1に示すように断線時に通常の信号電圧範囲から外れた値をとる(スケールアウトする)ようにするため、高抵抗Rgを介して正電圧または負電圧に接続されています。したがって、熱電対回路が正常な場合には、バーンアウト検出電流が熱電対に流れます。
温度測定点から計器室に置かれたカップル(熱電対)変換器までの距離が長くなると、配線抵抗が大きくなり、バーンアウト検出電流に起因する測定誤差が大きくなります。
公称断面積が大きい補償導線の使用
エム・システム技研製カップル変換器のバーンアウト検出電流は、ほとんどの場合約0.1μAとしています。
仮にK熱電対用補償導線KXの公称断面積0.5mm2を使用した場合を例にご説明します。
このKXを用いて100m延長した場合、補償導線部の電気抵抗は、表1より2.2Ω/mですから全配線抵抗は220Ωになります。
バーンアウト検出電流が0.1μAなので配線抵抗220Ωでの発生電位差は0.1μA×220Ω=22μVになり、これが熱電対の起電力に加算されて測定入力となります。
K熱電対の場合、起電力は1℃あたり約40μVですから、この場合
(22μV/40μV)×1℃=0.55℃ 程度の温度測定誤差が発生します。
同様に公称断面積が1.25mm2のKXの場合は、発生電位差が10μVで、温度測定誤差は(10μV/40μV)×1℃=0.25℃ 、また、公称断面積が2.0mm2の場合は、発生電位差が5.5μVで、温度測定誤差は(5.5μV/40μV)×1℃≒0.138℃ になり、公称断面積が大きい補償導線を利用するほど配線抵抗による温度測定誤差が小さくなることが分かります。
より線の公称断面積(mm2) | 補償導線KXの電気抵抗 (単位Ω/m) |
---|---|
0.5 | 2.2 |
1.25 | 1.0 |
2.0 | 0.55 |
ところで、1つの熱電対にカップル変換器とともに熱電対用記録計を接続すると(図2)、熱電対回路を流れるバーンアウト検出電流は、記録計のバーンアウト検出電流 Ia とカップル変換器のバーンアウト検出電流 Ib が加算された値になります。この場合、補償導線での発生電位差が大きくなり、結果として温度測定誤差が大きくなるため、このような接続は避けるべきですが、もし何らかの理由でこのような接続をしなければならない場合は、バーンアウト検出電流の加算を考慮の上、公称断面積が大きい補償導線を使用して配線抵抗を十分に小さくする必要があることにご注意ください。
延長導線に補償導線を使用するときのご注意
熱電対とカップル変換器間に距離がある場合、使用する熱電対に対応した補償導線を使用することにより、熱電対起電力を正しく手軽に伝送できますが、補償導線の場合は、熱電対と同様に極性があるため、注意が必要です。
また、補償導線には、エクステンション型とコンペンセーション型があります。
エクステンション型は、熱電対と同じ材質を使用するために広い温度範囲にわたって高い精度を保つことができますが、高価格です。
一方、コンペンセーション型は、熱電対の熱起電力特性とほぼ同一になる代用合金を使用するため価格は安いのですが使用温度範囲が狭くなります。したがって、広い温度範囲で使用した場合、温度誤差の原因になります。
現場設置形2線式変換器の使用
上記以外の対策として、測定点のすぐ近くに現場設置形2線式カップル変換器を置き、ノイズに強い4~20mA DCの電流信号に変換した後、計器室まで電流信号で伝送するのも良い方法です。
変換器の設置場所で冷接点補償が行われているため、出力配線の導線素材には通常の銅線を使用でき、経済的に、しかも高い精度で安定した長距離伝送が可能です。
エム・システム技研では、保護管のヘッド(端子箱)内に取り付けられるヘッドマウント形2線式変換器(26・UNITシリーズ、27・UNITシリーズ)をご提供しています。
*1 『エムエスツデー』誌2006年2月号「計装豆知識」をご参照ください。
*2 参考引用文献:JIS C 1610:2012
【(株)エム・システム技研 設計部】