規格/標準

エムエスツデー 2006年1月号

計装豆知識

避雷関連のJIS規格について 印刷用PDFはこちら

1.JISのIECへの整合

1980年、日本は貿易の自由化に資するため、「GATT Standard Code(貿易の技術的な障害に関する協定)」に調印しました。これをうけ、また当時の円高対策も絡み、1995年にはJISの国際的整合化(IEC規格への整合)を推進する閣議決定がなされ、JISは積極的にIECと整合を図ることになりました。近年行われた避雷関連のJIS改正・新規制定(いわゆる新JIS)は、原則としてこの線に沿ったものです。今回は、新JISのうちとくに避雷技術に関係するものを取り上げ、筆者の見解を含めてご紹介します。

2.新JISの内容

• 建築物等の雷保護 JIS A4201:2003(IEC 61024-1)

新JISの中心となるのは、JIS A4201です。従来は、受電部・引下げ導線・接地から構成される、いわゆる避雷針周り(これを外部雷保護と呼ぶ)の規格でしたが、2003年の改正により、新しく内部雷保護が追加されました。内部雷保護とは、外部雷保護への落雷で発生する過電圧によって、建物内部が火災・爆発・感電の危険にさらされるのを防ぐ安全システムのことで、具体的には等電位ボンディングの施工や安全離隔の確保を行います。

ここで、等電位ボンディングという聞き慣れない用語について説明します。従来、避雷針接地は、電気設備用(A~D種接地)および通信用とは別にするのが一般でした。しかし、これでは落雷で避雷針接地の電位が上昇すると、別接地との電位差によってスパークが発生する恐れがあり危険なので、接地を共通にしようというのが主旨です。また、低圧配電線や通信線など外部からの引込線については、そのままボンディングすると短絡するので避雷器を介することになっています。

• 雷による電磁インパルスに対する保護 JIS C0367-1:2003(IEC 61312-1)

前記のJIS A4201が建物と人の保護を目的としているのに対し、JIS C0367-1は電子システムの保護を目的としています。ここでは、JIS A4201に従い外部雷保護を施した建物に対し、落雷電流による電磁気的干渉の強弱で領域分けを行い、各領域に施す電磁遮蔽と等電位ボンディングの方法を手引きしています。また、落雷電流のパラメータ(波形、電流波高値など)を示すとともに、外部雷保護の接地極から、ガス・水道管や配電・通信線など引込導体へ分流する電流値を規定し、それに見合うサージ耐性を引込導体やボンディングに要求しています。前述のJIS A4201にもあるように、引込線のボンディングは避雷器を介するので、ここには直撃雷に対応するタイプを使用します。引込口以降については、建物に侵入した電磁気によって発生する誘導雷サージを抑制するため、誘導雷に対応するタイプを使用します。

• 低圧用サージ防護デバイスの所要性能と試験方法 JIS C5381-1:2004、-21:2004(IEC 61643-1、-21)

従来、低圧避雷器に関するJIS規格はなく、2004年にIEC規格をそのまま取り入れて、新しく制定されました。JIS C5381-1には電源用、JIS C5381-21には通信用避雷器の表示および電気・機械的性能要求とその試験方法が規定されています。電源用では、試験波形によってクラスI~IIIに分類しており、クラスIは外部雷保護を施工した場合の引込口に設置するタイプ、クラスII、IIIは誘導雷対応タイプになります。

3.新JISの問題点  

新JISは、等電位ボンディングの採用で建物のケージ化を図っています。これによって確かに建物は安全に、電子システムの信頼性は高くなりますが、現実には問題点が多いと考えます。その最たるものが、落雷電流をクラス避雷器から配電線を通じて近隣に分流させ、避雷器を設置していない建物に被害を与える危険です(図1参照)。

図1

これらのJISは、欧州の規格をベースとした既成のIEC規格をそのまま導入して制定されたもの(IDT注))であるため、どうしても文化・習慣の違いが問題になります。欧州では、配電線の中性線を受給者側でも接地するTN系統を採用しているため、落雷電流が避雷器を設置していない建物に分流しても、そこの接地に流れ込んでくれます。しかし日本では、中性線をフローティングにするTT系統を採用しているため、避雷器が設置されていない建物では、分流してきた落雷電流が行き先を失い、過電圧が生じて電気設備の破壊や感電事故に至る危険があります。近隣だけでなく自身の建物でも同じで、従来の接地方式を施した建物に対し、改善する目的で等電位ボンディングを追施工すると、思いがけないところに落雷電流が流れ、事故を起こす恐れがあります。

いつかは避雷器がもっと普及し、このような心配がなくなるときがくるでしょうが、それまでは、近隣に悪影響を及ぼさないことを事前に確認するか、周辺に人家がない場所での採用に限られる方が無難でしょう。

注)IDT(identical):編集上の最小限の変更はあるが、技術的内容においては一致していること。

【(株)エム・システム技研 開発部】

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