規格/標準

エムエスツデー 2009年6月号

計装豆知識

タイプ“n”防爆構造について(2)印刷用PDFはこちら

先月に引き続き、タイプ“n”防爆構造(以下「タイプn」と略記)注1)についての説明です。今月は、技術的な特徴についてご説明します。

『エムエスツデー』誌2009年1月号の「計装豆知識」でご説明したNonincendive(ノンインセンディブ)では、正常動作においてだけ爆発の危険性を評価するのに対し、タイプnでは、正常動作時に加えて特定の異常状態注2) においても、周囲の爆発性ガス雰囲気を発火させる能力のないことが要求されます。この際の発火防止技術は、Nonincendiveの場合と同様に、本質安全防爆に類似した電気エネルギーを制限する方式注3)、火花を発生させない方式および火花発生箇所を何らかの方法で封じ込める方式に大別できます。なお、Nonincendiveにはない技術も利用可能です。これらを分類したものを表1に示します。

他方、Nonincendiveにはない要求事項もあります。すなわち、容器の保護等級として、IP54(裸導電部がある場合)またはIP44(絶縁された導電部がある場合)が要求されています。ただし、同じ保護等級の制御盤などの内部に設置する場合には、機器自体の保護等級は緩和されます。また、異なる電位の回路間において絶縁距離が要求されています注4) 。IEC 60664-1「Insulation coordination for equipment within low-voltage systems − Part 1: Principles, requirements and tests」で示されている基礎絶縁相当ですが、同規格の汚染度3の沿面距離を要求されます。また、空気中だけでなく、コーティング状態の沿面距離や樹脂充てんおよび固体絶縁物を通しての絶縁距離も規定されています。

日本の労働安全衛生法施行令やIECExスキームの場合、他の防爆と同様に認証機関による検定が必要です。しかし、EUのATEX指令の場合、カテゴリ3(Zone2)用の防爆機器に対しては、認証機関の検定を要求していません。したがって、タイプnの場合、認証機関の検定を受けることなしに、製造者自らの責任と権限で適合宣言が行えます。

防爆記号 名称および内容
Ex nA Non-Sparking Device(無火花デバイス)
通常運転時に点火源になるような火花を発生させない構造。安全増防爆構造に類似。
Ex nC Encapsulated Device(樹脂充てん形デバイス)
デバイス全体が充てん材の中に埋め込まれ、爆発性雰囲気が侵入しない構造。
樹脂充てん防爆に類似。
Ex nC Enclosed-Break Device(接点封入形デバイス)
接点を封入したデバイスで、その内部に侵入した爆発性雰囲気が爆発しても、
その容器が爆発に耐えかつ容器外部に火炎を伝えない構造。
内容積は20cm3以下。耐圧防爆に類似。
Ex nC Hermetically-Sealed Device(ハーメチックシール形デバイス)
容器内部に爆発性雰囲気が侵入しないように、容器を熔接、ろう付けなどの方法で
接合されているデバイス。
Ex nC Non-Incendive Component(非点火性部品)
爆発性雰囲気に点火可能な回路を開閉する接点を有する部品であるが、
その接点が点火を引き起さないような構造の部品。
Ex nC Sealed Device(シール形デバイス)
通常運転中には、開けることができない構造で、爆発性雰囲気が侵入しないよう
シールされたデバイス。
Ex nL Energy-Limited Apparatus(エネルギー制限機器)注3)
回路や部品がエネルギー制限のコンセプトに従っている機器。本安機器に類似。
Ex [nL] 注5)
[Ex nL]
Associated Energy-Limited Apparatus(エネルギー制限関連機器)注3)
エネルギー制限回路と非エネルギー制限回路を含み、非エネルギー制限回路が
エネルギー制限回路に悪影響を及ぼさない機器。本安関連機器に類似。
Ex nA nL Self Protected Energy-Limited Apparatus(自己保護形エネルギー制限機器)
エネルギー制限された接点、その回路にエネルギー制限された電力を供給する回路
およびその回路へのエネルギー制限されない供給電源を含む回路。
Ex nR Restricted-Breathing Enclosure(呼吸制限機器)
外部の爆発性雰囲気が呼吸作用によって侵入するのを防止している機器。

注1)構造規格では「非点火防爆構造」と呼ばれますが、実際の検定で適用されるJIS C60079-15の標題が「爆発性雰囲気で使用する電気機械器具−第15部:タイプ“n”防爆構造」であるため、本稿では「タイプn」とします。
注2)正常動作には、外部端子での開放、接続、短絡および地絡、ランプやモータの起動時突入電流、調整のための可変抵抗器の操作なども含まれます。規格では、特定の異常状態の例としてランプの故障が示されています。
注3)Zone 2危険場所専用の本質安全防爆「Ex ic」に移行する予定です。
注4)Nonincendiveの場合、認証機関が一般的な安全規格(例:UL61010-1)への適合性を併せて審査するので、その規格に必要な絶縁距離が保たれます。
注5)機器自体を危険場所に設置可能な場合はEx[nL]、不可能な場合は[Ex nL]となります。

【(株)エム・システム技研 設計部】

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